維新―想い―-1
その夜、土方は酷く機嫌が悪かった。
今日は明朝から新政府軍の攻撃を受けていた。これに対して彼は僅かな手勢で新政府軍を退け、勝利へと導いた。
その後、部下達とささやかな宴を張り、お互いの労を労っていたのだ。
ここまでは彼の機嫌も良かったのであるが、宴の最中に急に総裁に呼ばれて渋々、奉行庁舎へと向かっていた。
誰もいない夜道を一人で進む。
こんな夜中に呼び出して一体どういうつもりなのか。
苛立つ気持ちを抑えながら奉行庁舎の門をくぐった。
「まぁ、そこに座り給え」
部屋に入った彼に総裁はまず言った。
「いや、結構」
土方は即答した。用事を早く済ませて皆の元へ戻りたいのもあるが、それ以上にこの部屋の西洋気触れの雰囲気がどうも気に入らなかった。
「そうか…ならこれはどうだね?」
そう言ってテーブルの上に置いてある皿を差し出した。
「…これは?」
「西洋の食べ物でサンドウィッチと言うものだ。
手を汚さずして片手で食べることができる、戦には非常に便利な食べ物だと思わないかね?」
「それなら俺は握り飯で十分だ」
「だが、それでは手が汚れてしまうだろう?」
「それでも構わない」
「土方君。君は新選組の中でも一際早く西洋の服を着ていたそうだが…」
「あぁ、そうだ。西洋の服の方が袴より動きやすい。合理的だ」
「そうかね。では、その髪は?」
「これもだ。髷より手入れが入れやすく、何より清潔だからな」
「それも合理的だと?」
「あぁ、そうだ」
「だとしたら、このサンドウィッチも握り飯より合理的だとは思わないのかね?」
「それとこれとは話が違う」
「いや、同じ。食べ物になっただけだ」
はぁ…と土方は大きな溜め息を吐いた。
だから、こいつは嫌いなのだ。
「こんなことを言うために俺を呼んだのか。
なら、もう用は済んだ。俺は帰るぞ」
「明朝、新政府軍が総攻撃をしかけてくるようだ」
その一言が部屋から出て行こうとする土方を引き止めた。
「そうか」
彼はドアノブから手を離し、短く答えた。
「これがどういうことか分かるかね?」
土方が振り返ると総裁は自慢の髭を指で撫でていた。
上に反り返ったその髭は毎朝、卵白で形を整えているらしい。
「これまでの小競り合いとは訳が違う」
「その通り。我々が生きるも死ぬも明日次第ということだ」
総裁はそこで、んんっ、と声の調子を整える。