維新―想い―-2
「土方君。君は死に場所を探していた。そして函館まで来た。…そうだね?」
土方は前を向いたまま、何も答えない。
「明日、君が討って出るということはない。君には籠城に参加してもらう」
土方がゆっくりと総裁の方へと歩み寄る。
「ここには、この蝦夷共和国には君が必要なのだよ」
そして土方は総裁の隣りまで行くと、テーブルの上に置いてあった皿からサンドウィッチを一つ摘んだ。
はむ。
「…うむ。なかなかに美味い」
そう呟き、今度は皿ごと持って彼は部屋を後にした。
総裁は土方が出て行った後も何する訳でもなく、しばらく立ち尽くしていた。
「土方歳三、か」
「トシは将来何になるつもりだ?」
縁側の隣りに座っている男が尋ねてくる。
「なんだ、藪から棒に」
「いいから、答えろよ」
「そりゃあ、武士に決まってるだろ。でなかったら、今、何の為に俺は道場にいるんだか」
「あっはっはっはっ、そうに違いない」
男は豪快に笑った。
「カッちゃんはどうなんだ?」
「俺は、うーん、そうだなぁ…」
カッちゃんと呼ばれた男はしばらく悩んで、思い出したように手をぽんっと叩いた。
「分かんねぇ」
「分かんないのかよ!」
「俺はただトシと一緒にさえ居られたら…それだけでいいさ」
「…なんだよ、そりゃあ」
二人は目を見合わせて、それからどちらからともなくお互い笑い合った。
空は雲一つなく、青く澄み切っていた。
目を開けると無機質な天井がそこにはあった。
夜が明ける少し前だろうか。
とても静かな時だった。
なんで今更、あんな夢を…
土方はちょっと考えてみたが、すぐに考えるのを止めた。
いや、実は彼もなぜあんな夢を見てしまったのか、分かっていた。
たが、彼は自分自身に嘘をついて気がつかないふりをした。
土方という男はそういう男なのだ。
そして彼は今日も戦地へ赴く。
自分が今この世に存在している意味を確かめるためにと…