光の風〈決意篇〉-9
「どう、感じる?」
二人の横、日向には背を向けて貴未は話しかけた。
「いいえ、前と同じ。古の民かどうか分からないわ。」
視線を日向に向けたままでマチェリラが答えた。貴未が伺うように圭の方に視線を向けると圭は小さく首を横に振った。
「私には元から見定める事はできません。でも、あの話を聞いてから日向さんを見てもやはり思い出せない。」
「本当なのよね、貴未?」
二人の信じがたい思いはよく分かっている。こうも見事に日向に関する記憶は本人を含め誰からも消されていた。
しかし事実なのだ。
「日向はカルサの実の弟だよ。カルサがそう言ってる。」
カルサ本人が日向を実の弟だと認めている。その事実に二人は何も言えなくなった。表情が曇っていく、それぞれ思うところは沢山あるのだ。
太古の因縁を終わらせるために皆ここにいる。それはカルサだけではないのだから。
「カルサトルナスはどうしたの?」
「テスタさんと話し込んでるんじゃないかな。」
貴未の予想どおり、カルサとテスタの話はどんどん深くなっていっていた。
「でも貴方は国を出たのでしょう?」
カルサがここにいる理由、そして未来への道しるべについて踏み込んでいる。
これからは太古の国の皇子として生きていく為なのではないかと、テスタは言葉を続けた。
「この身体は今の時代で生まれたものだからな。」
今を否定すればこの身体を、過去を否定すれば己の魂を否定することになる。
二つ合わさって自分なのだと、カルサは静かに答えた。右手をゆっくりと優しく左胸にあてる。
「所詮オレは仕組まれたようにしか生かされない人間だ。ここにいる事も全て玲蘭華のシナリオ通りかもしれない。」
右手に伝わる鼓動、残酷なほどに生きようと動いているのが分かる。
この一音にも数えきれない人の命が刻まれている、それがこの身体に深く刻まれた事だった。
「貴方の信念は強い。私はここから動けませんが、ちゃんと見守っていますからね。」
いつものように変わらない笑顔でテスタは見送りの言葉を送った。子供を送りだす親の気分にも近いだろう。
「何かあった時、頼れる人には頼りなさい。」
カルサは思わず笑ってしまった。
いつもそうだった。太古の国の神官や関係者はいつもカルサを子供扱いしてくる。