光の風〈決意篇〉-7
「カルサは誰にも告げず、何よりも先に日向だけをここに避難させた。嫌いな奴にそんな事しないと思う。」
貴未から語られた真実、日向の脳裏に甦る記憶があった。
あの襲撃があった時、日向はやっとある程度使いこなせるようになった火の力で必死に戦っていた。
今まで生きていく為に何度となく戦ってきた、しかし魔物なんて相手にした事がない。
次第に極限まで追い込まれ、視界に入るもの全てに斬り掛かるようになっていた。斬っても斬っても目の前から敵は消えない。
それは魔物が撤退するまで続いた。
目の前から敵が消えても興奮状態がすぐ落ち着く訳がない。
静けさを取り戻したその場には日向の荒い呼吸だけが響く。日向の右手には使い慣れていない刃の長い剣が握られていた。
護身用に常備していた短剣では全く歯が立たなかったので落ちていたその剣を手に取り、ひたすらに戦っていた。生きる為に戦った。
手がガタガタに震えているのが分かる。背後に気配を感じた日向は考えるよりも本能で体を動かした。
もう疲れ果てて崩れ落ちそうな身体のどこにそんな力が残っていたのだろう。
一撃で確実に倒すべく、日向は振り向きながら全力で剣を振り下ろした。
たぶん、時間としては少ししか経っていないのだと思う。剣の刃と刃が擦れあうカタカタという音が耳に入ってきた。
「落ち着け、もう敵はいない。」
低くやさしい声が上から降りてきた。その声は日向が反応するまで何度も何度も語り続ける。
しばらくして日向は我に返った。
目の前には薄汚れ、戦いの激しさを物語る血痕がいくつも付いた綺麗な衣裳。視線をずらすと目に入ったのはカルサの顔だった。
「…カルサさん…。」
消えそうな声で呟くと、安心したのか全身の力が抜けて一歩二歩後ろへ下がっていく。重なり合っていた刄は力なく滑り、地面に落ちた。
自分の今の状況が理解できず、日向は剣を握りしめたまま立ち尽くす。とりあえず殺気を失ったことは安心し、カルサは改めて辺りを見回した。
魔物の死骸が所狭しとひしめきあっている。
「無茶を。」
ため息と共に出た言葉は日向の心に突き刺さった。
「歩けるか?」
カルサの言葉に日向は頷く。自分のした事に対しての羞恥心で顔を上げられなかった。
「お前をここに置いておく訳にはいかない。テスタの所へ連れていく。」
そうして日向はテスタの所で過ごす事になったのだ。