光の風〈決意篇〉-10
「オレには何人父親がいるんだ。」
自虐の意味も込めて呟いた。そんなに自分は危なかしいのかと情けなくて溜め息が出るほどだった。
少し拗ねたような姿にテスタは微笑んだ。可愛らしいと思ってしまうのは仕方がない。
「皇子の貴方は頭も良く、力も強かった。王の子であるという意識が強かったんでしょうね。」
ふと懐かしい香が鼻の頭をかすめた。一瞬にして色んな事を思い出させる、記憶も同じようなものだろうか。
顔を見るだけで何かを思い出し、話をしていくうちに広く深く様々な出来事を思い出していく。それは会話だったり、景色だったり、ただの一言の場合もある。
「しかし…どれだけ長けていても貴方はまだ幼かった。背も低く、手も小さい。その記憶は根強く私たちに残り、今の貴方を見てもそれは変わりません。」
テスタの表情は切なくて、しかしその表情は他の誰かでも見た事があった。どこか頭に残る記憶、その正体に気付いたときカルサは顔にだしてしまった。
それは何度も見た表情。
違う、何度もさせてしまった表情だと気付いた。
ナルもハワードも、ジンロも沙更陣もマチェリラもシャーレスタンも。そして千羅にもさせてしまった表情だった。
「違う、オレはそんなつもりじゃ。」
分かっていたつもりだった。
意地を張って一人で幕を閉じることが周りに迷惑をかけることも。だから千羅と出会ってから、色んな人と関わっていく中で協力していく事を少しずつ覚えていった。
こうして仲間を連れていくことも、国を出た事も大きな進歩だと自分ではそう思っていたのに。
どうしてまだそんな表情をさせてしまうのだろう。
困惑しているカルサの前でテスタはゆっくりと首を横に振った。まるでカルサが今考えている事を全て見透かしたかのような素振り、いや、実際に見透かしているのだろう。
「それでも貴方の想いは昔から何一つブレてはいない。貴方は強い信念を持っていますから。」
それは答えに似た言葉。カルサは自分の体が熱くなっていくのを感じていた。
「皆知っています。この戦いの幕の閉じ方…貴方は一つしか考えていない事を。」
カルサは衝動的に顔を背けた。目は泳ぎ明らかに動揺していた。
きつく目を閉じ、ゆっくりと開く。どこか寂しげな横顔は、次第に微かな笑みを浮かべた。まるで、知っていたと言っているかのよう。
「そして。」
テスタは再び口を開く。
「その方法以外に手が無いことも、皆知っています。」
テスタの声が低くなった。様子を伺いながらというよりは、丁寧に脆くはかないものを優しく包むような話し方だった。