不毛な関係-6
しばらくすると井上は猛スピードで戻ってきた。
前カゴには重そうな工具箱を積んでいる。
[ これで大丈夫だと思うけど… ]
カバーを開けて器用にチェーンを張ってから油をさして、またタイヤを調整してくれた。
前よりずっとスピードが出る。
井上の手は自転車の油で真っ黒だった。
私はしかたないからハンカチを出して井上に差し出す。
[ 洗って返すよ。 ]
[ いいわよ。
油で落ちないから… ]
別にどうでもいいハンカチだけど、井上はしばらくそれを見つめていた。
[ これ…捨てちゃうなら、もらっていいかな?
新しいの買って返すから… ]
その時、私はまた井上の疑惑を蒸し返した…けど
[ 捨てちゃってね。 ]
何だか複雑な気持ちのまま、油で真っ黒になったハンカチをそういう井上にあげて帰ってしまった。
忘れかけてたイヤな事がまた悶々と蒸し返した夕暮れだった。
次の朝。
私は井上を見つけると真っ直ぐに歩み寄った。
[ あの…ね。
昨日、いい忘れちゃってたけど…ありがとう。 ]
私はそんな一言すら忘れてしまってたのだった。
[ うん…よかったね。 ]
[ ねえ…何で… ]
[ なんだ、お前らデキちゃったのかよ。 ]
喫煙ブースから出てきた男子たちがまたからかう。
純也もそばにいたけど、何もいわない。
私はムスっとして男子たちをにらみつけると、その場を離れてクリーンルームに入る支度をした。