不毛な関係-5
… … … …
純也が残業の時、私はひとりで退社した。
以前なら2時間ぐらい待ってたりもしたけれど、最近ではひとりで帰ってしまう。
先に帰宅してから純也が終わって電話を待ってたりするけれど、かかってこない事も多くなった。
この日、私はひとり帰宅してると急に自転車が壊れてしまった。
ペダルを踏んでもタイヤが回らなくなったのだ。
困ったなぁ。
近くに自転車屋さんなんてないし…
[ どうしたの? ]
後ろからの声は、またよりによってあの井上だった。
無口でなに考えてるかわからないようなヤツで、本当に私の陰毛でも持ち帰ってそうだった。
でも…
井上と話しをしたのは初めてかも知れない。
同じ班だから、仕事の上で何か尋ねたりしたかも知れないけど会話した記憶はない。
[ なんでもないわ…
大丈夫だから。 ]
それなのに私は井上に冷たくしてしまった。
[ 故障かい? ]
[ うん…まぁ…ね。 ]
私が本当は井上の事を誤解してるんじゃないかって思ったのはこの時に私の自転車を覗きこむ目がなんていうか…
素直で私が勝手に思ってるいやらしさを全く感じなかったからだった。
[ 見せてみなよ。 ]
井上は自分が乗ってた自転車を降りると私の自転車を奪いとった。
[ チェーンが外れてるだけだと思うけど、音がしないから切れちゃったかも知れない。
ちょっとここで待ってなよ。 ]
そう言い残すと井上はそのまま自分の自転車に乗って走り去ってしまったけど、私は少し押して歩いたところで黙っていなくなっては井上に悪いような気がしたのだった。