双子の姉妹。 7-2
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今日も当然のように櫛森家へ。
今、櫛森家には週七、つまり毎日通っている。
俺の雇い主の会社との関係で、時間を増やしても給料が増えることはないのだが、毎日おばさんの夕食が食べられるならそれでも全然構わない。
「こんばんはー」
リビングに入ると、麻琴がソファーにぐでっともたれ掛かっていた。
「どうした、麻琴」
俺が声をかけると麻琴はゆっくりと顔を上げた。
その目は濁った魚のような色をしている…ように見える。
「見てわかんないの?へばってるのよ。ほら、今まで週二、多くて週三だったじゃない?でも今は週四か週五で時間は延びるわ内容は難しくなるわで…」
「…まあ、それもそうだな」
「うん!だから今日は休ませて!?」
麻琴の目は先程とは打って変わり輝く。
「あほか。お前受かりたくないのか?」
「ぐえ」
一蹴すると、どうやら輝いたのは一瞬のことだったらしく、麻琴はソファーに顔を沈めた。
「でもよく考えたら、俊哉くん、毎日家まで通うの大変よね」
おばさんがキッチンからリビングに移動して会話に参加した。
「…まあ」
「じゃあ、俊哉くんもこの家で暮らしましょう!」
おばさんはそう言うと、笑顔で手を叩く。
「はぁっ!?」
俺が反応する前に、麻琴が飛び起きて声を荒げた。
「だって毎日お勉強見てくれてるのにお給料は上げられないって言うし…おばさんが炊事洗濯してあげれば俊哉くんも楽でしょ?」
「確かにそれはありがたいですね」
「俊哉!なに言ってんの!」
俺の呟きが聞こえたらしく、麻琴はすごい剣幕で噛みついてくる。犬かお前は。
「お前な、俺だって男なんだから飯はどうにかできても洗濯とかは苦手だし大嫌いなんだぞ。それをしてもらえるうえに飯付き風呂付き寝床付きなんて言われたらそりゃいいなとも思うわ」
「でも…」
麻琴はしゅんとする。もうちょっと意地悪してみるか。
「それにお前に付ききっきりで勉強が教えられる。毎晩寝る直前までできるぞ」
「よかったわね、麻琴!」
「……」
おばさんが笑顔でそう続けると、麻琴の顔はすっかり青ざめてしまった。
うーん、やっぱりやりすぎたな。反省。
「…うそだよ。お前だって休む時間も一人の時間も必要だし、俺との時間で精一杯頑張ってるのはわかってるから。ちょっと悪乗りし過ぎた、ごめんな」
そう言って麻琴の頭を撫でてやる。
「……ありがと」
「…というわけで、非常に魅力的なんですがこの話は無しで、おばさん」
するとおばさんは困ったような顔をする。
それにしても、本当に俺のことまで気遣ってくれていい人だな。
「…じゃあ二人のどちらかと付き合い始めたら暮らしてね!」
「……はい!」
「ってちょっと!なに爽やかに了承してんのよ!あたしは俊哉と付き合うつもりなんてないんだからね!」
「いいよ別に…ってああっ!お前、長話してたらとっくに時間過ぎてんじゃねえか!ほら行くぞ!」
俺が促すと、麻琴は黙って俺の後を追って二人して階段を上がった。