薄明-2
既に交際期間は三年。誰もが認める二人。付け入る隙は全くなかった。
それでも、諦めきれなかった。今日久しぶりに会った彼女はさらに綺麗になっていた。
煙草を灰皿に押し付け、二本目に火を点ける。吸い慣れた煙草なのにやけに目が痛い。今、溢れそうになる涙は煙草の性だ。
そう思うことにした。
「また会ってくれますか?」
ホテルを出てタクシーに乗った彼女に問い掛けるどうしようもない俺。
一夜の間違いで済ませた方が弥生さんのためになるのに。
優しい弥生さんが何て言うか、わかっていながら一番最低な言葉を発する。
「またね、直行君」
弥生さんには彼氏がいる。四歳年上の社会人。将来も安泰な大人の男性。それに比べ、俺はただの学生。
俺は消えた方がいい。彼女の前から。俺の存在は弥生さんにとって邪魔になっている。
彼女の障害にはなりたくない。
それでも…
俺はあなたが好きです。
あなたを愛しています。
叶わぬ想いだとしても。
例え体だけの関係でも、あなたと繋がっていたいのです。
「最低だ…俺」
使い慣れたジッポライターで煙草に火をつける。闇の中に光が浮かび上がる。
ライターの火は俺の未来を暗示するかの様に、弱々しく揺らめいていた。