シンデレラストーリー-1
コッコッとヒールの音を響かせながら駅のホームへの階段を駆け上がっていた。
珍しくタイトスカートなんかはいているから階段を一段ずつのぼるしかない。
そんな時間はないのに。
電車到着のアナウンスが流れる。
すると、速める足からヒールは見事に数段下に取り残された。
「あっ!」
慌てて振り返る。
その視線の先は数段下。
スラっと長くきれいな手の男の人が私のヒールを拾い上げた。
騒がしい人の波の中で、そこだけが別の空間に思えた。
その人は数段上の私の元に駆け寄り、足元にヒールを置いてくれる。
「あ…すいません。ありがとうございます」
「いえ」
インテリ系のその人は小さく、優しく笑った。
「シンデレラみたい」
女子高生たちがそう口にしながら過ぎて行く。
ガラスの靴を拾ってもらったシンデレラ…?
こんな都会の真ん中で、そんなロマンチックな展開が…?
「本当ですね」
男の人は低く穏やかな声でそう言い残して階段をのぼって行った。
ぴったり足おさまったヒール。
この後の展開は…?
なんて、お伽話から現実に戻った私も慌ててホームへ駆け上がった。
しかし、時間切れ。
電車は出発してしまったようだ。