マッドな彼女with俺5-3
――放課後――
今日の授業も無事に終わり、香澄の見舞いに行こうと思っていたが、その前に屋上に行ってみることにした。
特に理由なんてない。ただ何となく屋上に行きたかっただけだ。
屋上への扉を開けるといきなり青く澄み切った空が俺を迎えた。
もうすぐ季節は夏に変わろうとしているのか、心なしか空が高く感じる。
「うん、良い放課後だ」
そんな独り言を人気のない屋上で呟くと、ふと屋上のベンチに誰か先客が座っているのを発見した。
長い銀髪が風に靡き、切れ長な目が印象的な彼女は足を組んで煙草を吸っていた。
「…校内は基本禁煙なんですけど」
ぶっきらぼうに俺が言うと彼女は――おそらく星ミサトさんは――やや驚いているようではあったが、すぐに、
「真田か」
と、一言で答えた。
「いや、だから煙草を吸うなって言ってんの」
「なぜ止めなければならない。別にお前には迷惑かけていないだろう」
悠然と彼女は吸い終わった煙草を携帯用灰皿に入れ、また一本煙草を吸い始めた。
「…まぁ、別にいいけどさ」
俺は彼女の横に腰を下ろした。
「あの…さ。
昨日は、何て言うか、その…ありがとな、ミサトさん。俺と香澄を助けてくれて」
これまたぶっきらぼうに俺は空に浮かぶ雲をぼんやりと見ながら言った。
自分でもきちんとお礼を言いたいと思っているのに、それは至極簡単なことなのに、なぜだか俺はそうできなかった。
「私のことは呼び捨てで呼べ」
ベンチから立ち上がって彼女も俺と同じように雲を眺めた。
「それと私はお礼を言われるようなことはしていない。
私はただ奏を助けただけだ。お前ともう一人はたまたまそこに居た、それだけだ」
ミサトさん、もといミサトは俺の方へ振り向いた。
そして彼女の目が俺の目を貫いた。
「お前はもっと考えて行動した方がいい。
昨日の件もお前一人では無理だと分かっていたはずだ」
「それは、そうだけど…」
「それなのにお前は感情だけで動いた挙句、お前自身とお前の大切な人さえも傷つけてしまった」
ピシャリとミサトに言い放たれ俺は反論すらできない。
「確かに人を助けようという心は重要だ。
だが、お前のようにその心だけで行動していると、いつか取り返しのつかないことになるぞ」
言い終わった彼女はしばらく俺を見ていたが、何も言ってこないと分かると、屋上から立ち去って行った。
…ミサトの言う通りだ。
俺は感情ばかりにつき動かされて、自分のことも周りのことも何も考えていなかった。
本当に、最低だ。
俺は時間が過ぎるのも忘れ、目の前の雲をただただ眺めていた。