想-white&black-L-1
それから数日後。
麻斗さんの誕生日を迎えた今日、学校を終えてから私と楓さんは着替えを済ませ会場のあるホテルへと向かった。
パーティーが始まる時刻まであと三十分といったところだが、会場には多くの人が麻斗さんのために集まっていた。
それは想像以上に盛大なもので中にはテレビでや雑誌等で見たことがある有名人も多く、それだけで場が華やいでいる。
それだけに元々が一般庶民の私などがここにいるのは酷く場違いな気がして気後れしてしまっていた。
「何だか圧倒されそう」
思わず呟いて溜め息をこぼすと、隣に立っていた楓さん口を開く。
「気にするな。俺が隣にいるんだからこんなのはどうとでもなる」
こういう場にはきっと慣れているのだろう。
何でもないといったように楓さんはそう言うと自分の左腕を差し出してきた。
その意味を理解できず仰ぎ見ると、普段より大人びた楓さんの眼差しが私を映す。
フォーマルな服装と撫でつけられた髪は寸分の隙もなく彼を彩っており、その魅力を存分に際立たせている。
そんな姿に思わず見惚れてしまいそうになった。
「人も多いから俺と腕を組んでおけ。お前みたいなのはすぐ迷子になるだろうからな」
「なっ…! ひどいっ」
当の楓さんは相変わらず私に対して憎まれ口をたたくばかりだったが、どこか楽しげでその表情は穏やかに見える。
「いいから早くしろ。置いてくぞ」
「う……、分かりましたっ」
結局まともに言い返すことができないまま、差し出された腕におずおずと右手を添えると楓さんは真っ直ぐ前を見据えて私をエスコートしていく。
その姿は普段の彼からは想像できないほど優雅で紳士的で、周りの誰よりも熱い視線を向けられていた。
私一人ではこの場には馴染めなかっただろうし、楓さんがいてくれるだけで心強い。
一流のこの場所もきらびやかなシャンデリアも装飾も豪華な食事も、全てが楓さんを引き立たせるための小道具にすら思えてしまう。
「楓さん。私何か飲み物をもらってきます。何がいいですか?」
「お前は別にそんなことしなくていい。こういう場では男を顎で使っておけ」
「でも、あ、ちょっ……」
私が飲み物を取りに行こうとするのを制すると、そのまま飲み物を取りに行ってしまった。
グラスを二つ手にした楓さんを眺めていると、色んな人達から次々と声が掛かっているのが見えた。
見覚えのある会社経営者や政治家、芸能関係者など私でも顔を知っている程有名な人ばかりだ。
楓さんはそれを笑顔であしらうようにかわしていたが、私の所に戻ってきた時にはその顔から笑みはきれいさっぱり消えていた。