想-white&black-L-9
「柚木か」
麻斗さんはそう呟くと、いたずらが見つかってしまった子供のように気まずい表情に変わった。
そんな麻斗さんに柚木と呼ばれた人が近づいたかと思うと恭しくに頭を下げた。
「こんな所で言い争っていては誰に見られるか分かりません。今日はマスコミも来ておりますし、主役である麻斗様が会場にいらっしゃらない上にこのようなことが知れたら余計な詮索もされかねません。どうぞ今のうちにお戻りください」
柚木さんに諭され麻斗さんも楓さんも気分が落ち着いたのか、それまで張りつめていた空気がいくらか和らいだ。
「……確かに柚木の言うとおり、だな」
楓さんは走った時に乱れた前髪をかき上げながら息をついた。
「いえ。こちらこそさしでがましいことを申し上げました」
深く頭を下げた柚木さんに楓さんは首を横に振ると私の肩を抱き寄せた。
「とりあえず俺達は今日はこれで遠慮させていただく。また日を改めて祝わせてもらうことにするよ」
「承知いたしました。わざわざ足をお運びいただきましたのに誠に申し訳ありませんでした。花音様もご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「い、いえ……」
確かに麻斗さんの行為はあまり誉められたものではないだろう。
自分の主の非を詫びる柚木さんの肩に麻斗さんが手を置いた。
「今日のことは俺に責任がある。さっきも言ったが勝手なことをしたことは悪かったと思ってるけど、そうさせたのは楓だってこと忘れるなよ」
「…………」
麻斗さんの言葉に楓さんは横目で一瞥すると何も言わず私を連れてその場を立ち去ったのだった。
屋敷に戻ってからも楓さんの表情はどこか厳しいままで誰とも口をきかずにいた。
だがその表情から何を思っているのか窺い知ることはできず、リビングのソファに座ったままじっと何かを考え込んでいるようだった。
そんな様子をドアの隙間から窺うことに気を取られていた私は、その後ろに誰かが立っていたことなど気づかなかった。
「花音様」
「……っ!?」
突然名前を呼ばれた驚きと、覗き見ていたことを知られないようにという思いが咄嗟に働き声にならない悲鳴が上がる。