想-white&black-L-6
「麻斗さんっ」
呼び止めても止まってはくれず、気が付けば私と麻斗さんは大勢の人達の視線を浴びていた。
目映いライト群に目が慣れず、一段下にいる招待客等の顔ははっきりと確認できない。
隣に立つ麻斗さんは何食わぬ顔で余裕の笑みすら浮かべながら、マイクに向かってよく通る声で挨拶を始める。
「皆様。今日は私、結城麻斗の為にお忙しい中集まっていただきましてありがとうございます」
突然現れた見ず知らずの私に会場中の視線が怪訝そうに向けられているのが分かる。
だが麻斗さんは臆することなく堂々とした態度で話を続けていく。
さすがと言うべきか、その堂に入った姿はまるで別人の様にも見え人々の視線を自分へと集中させた。
挨拶も終盤に差し掛かった頃、前を向いていた麻斗さんの視線がすっと私に流された。
「最後に皆様にご紹介させて下さい。先ほどから私の隣にいるこちらの女性ですが……。彼女は間宮花音さん。実はまだ正式に決定した訳ではないのですが、私は彼女と結婚を考えています。お互いまだ学生の身ですので、もちろん先の話になるとは思いますがどうぞ皆様お見知りおきを」
私はグイッと麻斗さんに肩を抱かれ引き寄せられる。
(え……?)
会場は麻斗さんの突然の発言にどよめきたつ。
私は頭の中が真っ白で麻斗さんに抱き寄せられたままその場で動くこともできずにいた。
声を出そうと思っても忘れてしまったかのように何の言葉も出てこない。
そしてようやく目が慣れてきた時、その視線の先には感情の読めない表情でこちらを見つめる姿があった。
―――大勢の人がいる中で、私の瞳は楓さんしか映さなかった。
「花音っ、待てって」
「付いて来ないで下さいっ」
呆然としたまま壇上を降りた後、私は麻斗さんから逃げるようにその場を去った。
そんな私を麻斗さんがパーティーがまだ続いているにも関わらず追いかけてくる。
「花音っ!」
とうとう追いつかれて手首を掴まれると、麻斗さんへ向き直されるように、そして逃げられないように両手で肩を掴まれた。
私の瞳には麻斗さんが息を切らしながらもまっすぐに見つめてくる姿が映る。
「悪い。花音に何も言わずに勝手なことをした」
「一体どういうつもりなんですか……っ。わ、私……」
何と言っていいのか、どう責めたらいいのか、憤りと混乱で上手く言葉が出てこない。
どうして突然あんなことをしたのか麻斗さんが全然分からなくなっていた。