想-white&black-L-5
「あ、そうだ。これから俺挨拶しなきゃなんないんだけどさ、花音の事皆に紹介したいんだよね。一緒に来てくんない?」
「はっ!?」
いきなり何を言い出すのだろう。
言っていることの意味をきっちり理解するまで時間がかかり、私はただぽかんと口を開けたまま麻斗さんを見つめる。
「花音もしばらく楓と一緒に暮らすなら顔を知られていて損はないし、英家は俺ん家とも繋がり深いから全く関係ないってわけでもないんだぜ?」
だからと言って私が麻斗さんと同じステージに立てるわけがない。
それよりも逆に目立たなく静かに暮らしたいくらいなのだ。
「いえっ、あの、私なんかそんな所に立てる立場じゃありませんから」
そう言って断ったが麻斗さんは笑みを絶やすことなく私の手を包み込むように握り締めた。
「平気だって。別に何か喋らせるわけじゃないし隣に立っててくれりゃいいんだから」
「いや、でも、やっぱりそういうのは……」
そんな所を楓さんが見たら何て思うかと考えただけで恐ろしい。
この間のこともあってか麻斗さんには警戒心を抱いたままだ。
その上私が麻斗さんと一緒に壇上なんかに上がったら、機嫌が悪くなるんじゃないかと気が気じゃない。
そんな私の様子を察したのか麻斗さんが瞳を覗き込んできた。
「楓の事心配してんの? 大丈夫だって。俺から楓には言ってあるから」
「え? そう、なんですか?」
「ああ。しばらく渋ってたけど最後には折れてくれたし。ほら、さすがに楓の目の前じゃ何もできないっしょ?」
そう言いながら笑う麻斗さんは私の手を握り締めたまま壇上に向かって歩き始めてしまった。
そんな中いよいよパーティーの始まりが告げられる。
壇上袖で待つように言われ、その間も手を離してくれず逃げようにも逃げ出せなくなっていく。
「ちょっ、あの、やっぱり私は……っ」
「大丈夫大丈夫。何も心配しなくていいから」
なぜこんなにも強引ともとれるほど私を引き止めるのか分からない。
楓さんを探そうとしてもここからでは柱の陰になってしまい見つけることはできなかった。
司会の声が順調に進行していく中、とうとう今日の主役でもある麻斗さんの挨拶の番になった。
「ほら、行くぞ」
そう耳元で囁くと手を引いてそのまま観衆の前へと足を進めていく。