想-white&black-L-3
多分彼にとって純粋だろうと不純だろうと寄せられる好意は迷惑以外の何物でもないのだろう。
尚更自分の抱いている想いは決して悟られてはならないと改めて思う。
痛む胸を抑えながらも会場の隅でグラスを傾けていると、楓さんの背後から上品そうな初老の男性が側に来たかと思うと彼の名前を呼んだ。
振り向くと楓さんの表情に珍しく作り物ではない穏やかな笑みが浮かぶ。
どうやら彼は著名な作家で楓さんも彼の作品を愛読しているらしい。
私自身普段本を読まないせいかその男性の凄さがよく分からずにいたが、楓さんが楽しげに話をしているのを邪魔したくはなかったので私はその場をそっと離れることにした。
とはいえ一人でこの広い会場の中を動くのはやはり緊張する。
楓さんの他に知っている人間はいないため話もできないし、むやみに動くのも躊躇われた。
結局どうすることもできず、隅の方で一人華やいでいる世界を眺めているとぽんと軽く肩を叩かれた。
「きゃあっ」
ぼんやりしていたせいもあり、突然のことに驚いた私はグラスを手から滑り落としてしまう。
幸い床が絨毯だったおかげで曇り一つない華奢なグラスは割れずに済んだが、まだ残っていた中身が零れて絨毯に濃い染みを作っていった。
近くにいた人達からの視線がこちらに集まっているのが見なくても分かる。
「あー、悪い悪い。びっくりさせちゃったか?」
「麻斗さん!?」
振り向くとそこにはフォーマルスーツ姿が見事に様になっている麻斗さんが申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「ごめんなさいっ、私ったら……っ」
慌てて落ちたグラスを拾おうとしゃがもうとしたが、麻斗さんの手が私の腕を掴んでそれを阻む。
「いいよ、そんなことしなくていい。ちょっと、悪いが片付けてやってくれないか」
麻斗さんは私の手を取り立たせると側を通りかかったホテルの人間に声をかけた。
すぐにグラスが拾われ床を拭かれる。
「大丈夫か? 相変わらず目の離せない子だな」
「本当にごめんなさい。来た早々ご迷惑をおかけして」
「いいって、全然。あんなの迷惑の内に入んないし。それよりドレス濡れなくて良かった。似合ってるよ、そのドレス」
そう言って麻斗さんは私を見つめて目を細めた。
だがそんな風に優しい眼差しでじっと見つめられては恥ずかしさで頬が熱くなってしまう。。
「あの、麻斗さんも……。いつも素敵だけど今日はまたすごくカッコいい、ですよ」
それは嘘偽りのない本音だった。
格好のせいなのか場所のせいなのか、ぐっと大人びて男らしい色香が増しているように見える。