想-white&black-L-2
「……全く、鬱陶しいな」
独り言のように呟いて私にグラスを渡すと、不機嫌そうに眉間に皺を寄せて自分の分を一気に飲み干した。
「でもすごいですね。みんな私でも知ってる人ばかりで」
「俺の肩書きにしか興味がない奴らばかりだがな」
面白くなさそうに吐き捨てると先ほどの人達を冷ややかな目で一瞥する。
そんな時だった。
「楓!」
楓さんの背後の方から弾むような女の人の声が聞こえてきたのは。
振り向いた先にいたのは誰が見ても美しいと思えるほど、セクシーで綺麗な女の人だった。
「楓ったら久しぶりじゃない。こういう席に出るなんて珍しいわね。あ、少ししたら一緒に出ない? またあの夜みたいに、ね?」
楓さんの腕に自分の腕を絡ませ、胸元をわざと押しつけながら誘惑しているのは見て分かる。
潤ませた瞳が官能的な雰囲気を匂い立たせていた。
(この人も楓さんに抱かれたことがあるんだ……。)
彼女の話からしてそれは間違いないのだろう。
昔に嫉妬しても仕方ないとは思うがやはり目の当たりにされると胸が痛む。
「ねぇ、楓……」
囁かれる甘い声と共に美しく手入れされた指先が楓さんの口元に伸ばされたが、その指が唇に触れることはなかった。
「離れろ」
「え?」
それまで何も言わず、ただ黙ってその女性見下ろしていたを楓さんの低い声がした。
「離れろ、と言ったんだ。俺に気安く触るな。悪いが一度寝たくらいの相手はいちいち覚えていないんでね。……さっさと失せろ」
見ているこちらが身震いしてしまいそうなほど冷ややかな双眸と辛辣な言葉を吐き捨てられ、その人は呆然としながらも何も言えないまま楓さんから離れて去ってしまった。
「楓さん。何もあそこまで言わなくても良かったんじゃ……」
何となく可哀想に思えてしまった私はついそんなことを口にしていた。
だが楓さんは全く気にする素振りなどない。
「構わない。俺は事実しか言っていないし、セックスの相手になったくらいで勘違いされる方が面倒だからな」
「…………」
その言葉に私は何も言えなくなってしまった。