ラブ節句ー雛ー-1
「俺はな、巷じゃ信念を曲げない男として有名なんだよ」
どこの巷だよ。少しも耳にしたことねぇよ。
別に曲げなくてもいいんだよ。むしろそこは貫き通してほしいよ、男なら。
でもさ例外とかあるじゃん。
「俺、あっくの初節句、カブト買ってやりたいんだ!」
そこは曲げてくれ。
「いぃやぁ〜、それはどうかなぁ〜」
ぐねんぐねんに曲げてくれ。曲げまくってくれ。
人生踏み外すぐらい曲げてくれ。
「カブト、格好いいじゃん!」
カブトは格好いいよ。
「でも、あっくは女の子だし、お雛様がいいよ」
格好いいけど、あっくにはどうかと思うよ。
「あ、じゃあこいのぼりでもいいよ」
何、その仕方無いからこれで折れてやるよ的な態度。
だとしても即刻、却下だからね。
「女の子はみんなお雛様なの」
「何でだよ!誰が決めたんだよ!初節句が格好良くなくてどうすんだよ!」
どうもしないよ。
なぜ、初節句に格好良さを求める?
もういい加減にしてよ。
早くそのチンケなプライドのようなもの捨ててください。
「あっくは可愛いから、綺麗なお雛様でいいの」
「あっくがそう言ったのか?」
は?
「あっくが、お雛様がいいと言ったのですか?」
えぇ〜めっちゃ食い付いてきたんですけど〜。
ウッザ。まじウッザ。
「じゃあ聞いてみれば?」
「なぁ、あっく〜。あっくは超カッコいいのとたぶん綺麗なのどっちいい?」
そもそも、その質問どうなんですか?
性格良いブサイクと性格悪いイケメンどっちがいい?の類いですか?
ほらー、あっくすんげぇ微妙な顔してるしー。
「あっく〜、カブトとお雛様どっちがいいかな」
あんたに任せちゃおけません。
「カブト?」
…無反応。
「お雛様?」
…無反応、と見せかけて微かに頷いたっ!
「見た?」
お雛様の勝利。
「くそぉ!カブトのどこが…どこが悪いんだ!」
カブトが悪いんじゃなく頭が悪いんだよ、あんたの。
「さぁて負け犬さん、さっさと支度して。雛人形買いに行くよ」