【イムラヴァ:第一部】 一章:移民の船-2
「あのお城の塔や広間はどうするのだい
エドワード エドワード
あのお城の塔や広間はどうするのだい
あんなに立派な塔や広間は
くずれるままにしておくさ 母さん 母さん
くずれるままにしておくさ
ぼくはもう二度と帰ってこないのだから」
王女はその歌に耳を傾けながら、天幕に広がる星屑を見上げた。
船は進む。王を失い、国を失った者たちを乗せて。果たして行く先に何が待っているのか。もはや平和を望めないことはわかっている。最後には死があることもわかっている。敵兵の温情にすがって、いたずらに生き延びる彼女の身を案じて、祖国を後にした家臣達。遅かれ早かれ処刑されるか、トルヘアに永遠の忠誠を誓った上で、王の飼い犬に成り下がる運命を、甘んじて受け入れる決心をした者達だった。そんなことをするくらいなら、舌をかみ切って死んだほうがましだと、国に残った者も大勢いた。彼女は目を閉じて、全ての死者と、これから死にゆく者達のために祈った。
今、何人が目覚めているのだろうか。悲しみと苛立ちと、ほんのわずかな希望を、纏った襤褸の懐に抱きしめて横たわる、何人があの歌を聞いているだろうか。
少女は、暖かな体内に、幽かなうごきを感じた。それは、戦火の中に生を受けた新しい命。何世代を経ても、彼らは、彼女の子孫の顔に見るだろう。
まばゆい希望の光を。