【イムラヴァ】 序章:エレンの浜-2
「いざ立ちて還らんわが都へ
析析と栄える緑の地
ヘレンの加護篤く
永に波間に映ゆ
遠く離れたこの地にありて
郷心弥増すばかりなり
あの風韻は今も聞こえているか
壮麗なる城の
あの鐘は今も歌うのか
城邑の繁栄未だ衰えず
民草は健やかなるか
雨暘時若たる恵みのもとに
いざ発ちて還らんわが都へ
蒼海に隔たれた我が故郷
長き船路の艱難を
堪えて戻りし流浪の民を
迎うる腕は白き浜
迎うる声は森の囁き
あの風韻は今も聞こえているか
壮麗なる城の
あの鐘は今も歌うのか
城邑の繁栄未だ衰えず
民草は健やかなるか
雨暘時若たる恵みのもとに
されど還り来し我らに
都の風は歌いはしなかった
白銀の鐘はひび割れて落ち
城は崩れ 民は消えた
虚ろな都に雨が育むは
恐れを知らぬ草ばかりなり
立ちて還りしわが都は
析析と栄えた緑の地
今やエレンの恩寵は失われ
永に波間に消ゆ
夢にまで見たこの地にありて
郷心弥増すばかりなり
夢にまで見たこの地にありて」
それは大変な昔の話。大いなる母神ヘレンに護られた西の果ての島国、エレンは、古き教えを守り、古き民とその技を守り、平和の元に繁栄した。
これは昔の話。エレンの守る平和と古き民の技は、力を求めるトルヘア王国に狙われた。そして、エレンは戦に負けた。偉大な王は斃れ、飢えた怪物どもが猖獗を極め、希望ももはや絶え果てた。エレンの民は泣く泣く国を捨て、彼らを統治するトルヘアに逃れた。
しかし、一人の少女は知っていた。あらゆる災禍が解き放たれた混沌の中、残されたものがあることを。
それは希望。そして、それは光。
その名は――