コンビニ草紙 第十六話-1
第十六話 酔惑―其の二―
「…りょーこさん、少しお聞きしたい事があるんすけど。」
「え?何でしょうか。」
「蒔田さんとは、お友達なんすか。」
「…どうしてですか。」
「蒔田さんが、りょーこさんの事を呼び捨てで呼んでいたので。」
書籍を取りに来て鉢合わせになった時に、
ヒロタカが“リョーコ”と言っていた気がする。
確かに名前で呼び合う仲で知り合いじゃないと言うのは不自然だ。
「えぇ、大学時代からの友達なんです。今日久しぶりに会ったんです。」
「そうなんすか。何だか親しげだったので、お付き合いされているのかと思いました。」
「ま、まさか!そんな訳、絶対にありません。」
動揺と嫌悪感で少し前に乗り出してしまった。
彼は少し驚いた様子で口に運んでいたお猪口の手を止めた。
「そうなんすか。なんか失礼な事聞いてしまってすんませんでした。」
「い、いえ。そんな事ないです。
私こそ、何だかムキになって否定してごめんなさい。」
「へぇ…。りょーこさんは本当面白いす。一緒にいると、…楽しいす。」
「え、それは、どうも…。」
やっぱり変な女と思われているのだろうか。
…思われてるんだろうな。
でも、一緒に居ると楽しいって事は好意は持ってくれていると思っていいのかな。
日本酒が美味しくて、いつもより早いペースで呑んでいるから酔いが回るのが早い。
上手く定まらない思考で考えると、
期待と不安や色々な感情が混じり合ってわからなくなる。
「時間、大丈夫すか。」
「え、えっと…。」
腕時計を見るともう23時を過ぎていた。
楽しい時間はどうしてこんなにも早く過ぎるのだろう。
「そろそろ、行きましょうか。」
「…そうですね。ご馳走様でした。」
店を出ると少し肌寒かった。
この前までは本当に過ごしやすい気候だったのに、
最近は寒くなったり、暖かくなったり何だか不安定な気温だ。
彼が駅まで送ってくれると言うので、
酔い覚ましに隣の駅まで歩く事を提案すると、快く了承してくれた。
本当は少しでも一緒にいれる時間を引き延ばしたいだけなのかもしれない。
駅が近くなると、彼が私の前に立って、じっと見つめてきた。
あの目で見られると、何だか目の中に吸い込まれそうな感覚になる。
顔が近づいてくる。