恋してくれますか-5
「それで?今日は何か分からない問題でもあったのか。」
私は準備室の椅子に座り、珈琲を淹れる先生の背中を見ていた。
「いえ、」
私は言葉を切り、むこうを向いている先生を見る。
「先生に、会いに来ました。」
先生は振り返り、探るような目で私を見る。
一口、珈琲を飲んだ。
「そうか。」
「帰れって、言わないんですか?」
『由香ちゃん♪』のことを思い出す。
私が聞くと、先生は答えるように少し眉を上げた。
「なぜですか?」
つい食い下がる私を見て、先生はカップをテーブルに置く。
「さあ、なんでだろうな。」
あ、はぐらかした。
「先生のずるっこ。」
「は?」
「何でもないです。」
私は何事もなかったかのように教科書を開いたが、教科書がすっと私の手からなくなった。
「あ。」
顔を上げると、先生がその教科書をぱたん、と閉じた。
「畑本は、人のこと言えるのか。」
「何がですか?」
ぼんやりした顔で先生を見る。
やっぱり、先生の目って綺麗だなぁ。
先生はまた、呆れたように大きなため息を吐いて、私を見た。
「『ずるっこ』。」
先生の口からは出そうもない言葉を聞いた。
「私が、ですか?」
「そうだよ。」
「なぜ。」
「さぁな。」
…なんだろ?
先生が何を思っているのか、と考え込んだけれど、ひとまず先生の手から教科書を取り戻そうと私は手を延ばした。
しかし、教科書はまたもや私の手をすり抜ける。