恋してくれますか-2
…先生は、なんて答えるんだろ?
私が息を吸うと同時に、先生のため息が微かに聞こえた。
「用がないなら帰って課題プリントを…」
「だーかーら、センセに会いに来たってゆってんじゃん。」
先生の言葉をあっさり打ち消す『由佳ちゃん』の声。
神経質そうに眉根を寄せる先生の表情が、目に浮かぶ。
「そういう用は、受け付けかねる。」
「なぁんで?センセのケチ。」
「当たり前だろ、俺はお前の彼氏じゃない。」
"彼氏"という言葉が消化出来ずに頭を回る。
こい、びと?
先生の口から出たその言葉に考え込んでいるうちに、バタバタと音を立てて誰かが部屋から出て来る気配がした。
私が慌てて体を小さく丸めると同時に『由佳ちゃん』が準備室から出てきた。
「べーっだ!センセの頭でっかち。」
「俺は頭でっかちでいいから、宿題くらいはやっとけよ。」
続けて先生が出てきて、私は更に体を固くする。
先生の室内履きを身につけた足元が、私のすぐ横に来る。
「しーらないっ、じゃあね〜。」
風のように去っていく『由佳ちゃん』に、私もつい息を吐く。
「それで隠れてるつもりなのか、畑本。」
突然私に向けられた声に驚いて振り返ると、先程まで足だけだった先生は、しゃがみ込んで私を呆れたように見ていた。
「あ、先生。」
「そんな所で何をしてるんだ。」
「あー…あの、えと、」
頭を必死に回転させる。
「じ、地震の防災訓練を、しようと思って。」
いつも頭の回らない私にしては上手い答えだと満足したのは自分だけのようで、先生は更に怪訝そうな顔になった。
あれ、またなんか変なこと言っちゃったかな…。
「一人で、か?」
「はい。」
「揺れないのに?」
「それは、その、想像で。」
「例えば?」
た、"例えば"?
私はさっきよりも更に早く思考を巡らせる。