ゆらぎ村の悪霊〜後編〜-3
「ええ、確認するまでもない。恐らく何体分もの…村まるごとの白骨が入っているのでしょうね。黄泉道の社とはよく言ったものです。これでは死者の国への入り口どころか、地獄への入り口ですよ。」
「神道的要素に仏教的要素が加わるのは、日本ではよくある事ですからね。あとは一番の疑問を解決しなくちゃなりませんね。」
二人にとって、一番の疑問とは、何故この時期に異変が起きたのかだった。
尾部は約200年前に閉ざされたこの洞窟で何があったのかが今回の一件の鍵を解く最大のヒントになると睨んでいた。
「やはり、中の白骨達は由良木村の村人達なのでしょうか。それでは、今いる由良木村の人間は…。」
「記録が残っていないので、何とも言えませんが、阿須磨村の人間が二手に別れて、片方が由良木村の人間となった…あるいは、他の土地から由良木へ人間を呼び込んだ。推測でしか物事を考えられないのは辛いものですね。」
尾部は上着を洞窟の乾いた所に置いて、何かを決意したように箱に手を置いた。
「やっぱり、開けましょう。遺体は全てを知っている。この中の白骨にエネルギー体が残っているのなら、私ならその記憶を読み取ることが出来ます。」
「祓い師というのは、案外色んな事が出来るんですね。」
そう言うと、尾部と伯方は箱を開けて中を覗きこんだ。
「………………。」
箱の中には二人の予測通り、バラバラになりかけている白骨がまがまがしい気を放って、ぎっしり詰まっていた。
「なっ……!!」
急に尾部の意識が飛び、その場に倒れ込んだ。
伯方はあわてて尾部に声をかけたが、返事がなかった。
そして、5時間後……
尾部は旅館の部屋で目が覚めた。
「大丈夫ですか?」
伯方が目の前に座っていた。
「伯方さん…。うっ…。全て分かりました。全てが…。」
伯方はうなずいた。
「由良木村はやっぱり一度滅んだんです。阿須磨村の人間によって…。」
「村人達の記憶ですか…。」
「ええ、断片的な記憶ばかりでしたが、何せ数が多かったので、色んな事が分かりました。」
「それは一体…?」
尾部は語りはじめた。
《当時の由良木村の領主である小島氏は江戸幕府成立後、幕府から多大な報酬を受け取り、力に溺れて、以前より行っていた阿須磨村への取り立てをさらに強めました。これまでは、取り立てるものは農産物だけだったのですが、小島氏が力を強めてからは、女を差し出せと要求するようになりました。》
「ちょ、ちょっと待って下さい。それってまるで…。」
「まるで、神様への貢ぎ物のよう…ですよね。実は、小石神様の伝承の真実もそこにあるんです。」
伯方は驚いた。