ゆらぎ村の悪霊〜後編〜-2
「今、何が起こったんですか…?」
尾部はズボンについた汚れをはたいて、懐中電灯を鳥居の方に照らした。
「今のは私の方が専門ですね。あれは結界ですね。恐らく、阿須磨村の人間が昔施したものかと…。」
伯方は腕を組んで何やら考え出した。
「一連の異変は死人の犯行、そして、今の結界は生きていた人間の犯行…という事ですか。…となると、やはり何やら都合の悪い物がこの先にあるようですね。尾部さん、祓い師というのは、結界を解く事も出来るのですか?」
伯方がそう言うと、尾部は鳥居の前まで近づいて、先に手を伸ばした。
「そういえば、まだ何も教えてませんでしたね。祓い師が一体何を出来るのかを…。」
尾部は目を閉じて全身の力を抜いてみせた。
「結界というのは、エネルギー体から得られるエネルギーを利用して張るものです。なので、そのエネルギーを吸い取ってしまえば、結界は消えます。」
「エネルギー体…?」
伯方は首をかしげた。
「死人から出た精神的エネルギー…一般的にいうと、幽霊のことです。あれらは生前の本人とは違い、実は自分の意志を持っていない、ただのエネルギーの塊なんです。」
「……まさか、そんな話は聞いた事もないです。」
「吸収したり有効活用する人間はそもそも数少ないですし、エネルギー体自体、ほとんどが自然消滅してしまいますからね。」
「では、秋津さんのような霊媒師は…?」
「大抵の方は見えるだけだったり、インチキだったりしますからね。中でもたちが悪いのは、知らずにエネルギー体を消滅させてしまう人間ですね。」
「しかし、意志を持たないのなら、なぜ今回のような異変を起こしてしまうのですか?」
「それは、本人の記憶を持っているからです。とはいえ、記憶の全てではなく、欠片程度なので訳もわからず、暴走してしまうんですよ。」
「んー、あなたの話は何となく説得力がありますが、それでもまだ疑問が沢山ありますね…例えば……」
伯方が言いかけると、尾部はそれに被せてきた。
「結界を解きました。私の疑問は全て終わった後でゆっくり説明しますよ。とにかく今は…。」
「ええ、先を急ぐとしましょう。」
そして、尾部が先行して、鳥居をくぐり、伯方は後に続いた。
鳥居の先には大きな箱が祭ってあり、それを守るように少し大きめの小石神様の像が一体飾ってあった。
「箱の中身は……やはり……。」
尾部がそう呟くと伯方は重い表情で言った。