ゆらぎ村の悪霊〜前編〜-5
「それで、尾部さんは…?」
「ええ、結局社自体は見つかりませんでしたが…。」
尾部は祠の参拝の順番と、最後に参拝するお堀口の事を伯方に話した。
「ほお、初めて知りました。なるほど、阿須磨村の百姓達は戦国の昔、由良木村の領主に仕えていたそうですからね。」
「阿須磨村には領主はいなかったのですか?」
「もちろんいましたよ。しかしながら、阿須磨村の領主である松坂家は由良木村の領主小島家の分家にあたりまして、傲慢な小島家の人間は松坂家の所領を我が物のように扱っていたわけです。」
「お前の物は俺の物…そういう事ですか。」
「まぁ、そんな小島家を出雲を束ねる尼子氏がどう思っていたのかは知りませんがね。」
伯方はそう言うと、何かひらめいたような顔をして、立ち上がった。
「尾部さん、お堀口を掘りに行きませんか?」
それを聞いた尾部は少し驚いた顔をして伯方の目を覗きこんだ。
「墓荒らしならぬ堀荒らしをするつもりですか!?」
「私達は行き詰まっているんです。それ位の事はしないと、話は進みませんよ。」
伯方は妙に張り切っていた。
「う、ううん。……わかりました。じゃあ、行きましょうか。」
こうして、伯方と尾部は由良木山のお堀口へ堀荒らしに向かったのである。
《つづく》