ゆらぎ村の悪霊〜前編〜-3
伯方次郎は村人に聞き込みをし、秋津よし子は何やら宿泊先の旅館で儀式めいた事をやっているようだった。そして尾部京太は例の社の手掛かりを探すため、数ヶ所ある祠を見て回ることになった。
こういう村の祠には地蔵やら動物やら何かが祭ってあるものだが、ここでは妙な物が祀ってあった。
「これは…勾玉…でもないよな。」
何とも言いようのない像だった。勾玉のような形に人のような顔、それが三体横一列に並んでいるのである。
他の祠にも全く同じような像が祀られていた。尾部は一旦引き返し、この像のことを伯方に聞いてみた。
「ああ、それは小石神様ですね。」
「小石神様…?小石って…あの小石ですか?」
「いえ、この小石神様には色んな説があるらしいのですが、私が知るところによると、日本神話に出てくるイザナミが産んだ子の一人で、玉の神様だとか。ただ古事記にはこのような話は載っておりませんし、信憑性のある話ではありませんよ。」
「小石なのに玉…ですか。では、三体並んでいるのは一体…。」
「小石神様は黄泉の国へイザナミに会いに行き、黄泉の国で三つに引きちぎられた。なので、勾玉のような形になったそうです。」
「イザナミに会いに…。まるでスサノオのようですね。では、黄泉道の社というのは…。」
「ええ、小石神様がイザナミに会いに行く時に通った黄泉の国への入り口…。こう考えることができますね。残念ながらそれについての伝承はありませんが…。」
「イザナギが閉ざした入り口とは別の黄泉への入り口があった…。なかなかこの村は面白いですね。」
「そうですね。それよりも、何か手掛かりはありましたか?」
「いえ、今のところは…。」
「そうですか。実はこっちもまだ大した事は分かっていません。…日が暮れたらもう一度合流しましょう。」
「はい。」
尾部はもう一度祠を調べに向かった。
「んー、それにしても変な像だな。三体いるなら、それぞれ違う表情をすればいいのに、三体とも悲しい顔で統一されてるしな。」
そうして小石神様を睨んでいると、後ろから誰かが近付いてきた。
「小石神様が珍しいのかね。」
振り返ると、70くらいの老人が籠をしょって立っていた。
「ええ、伝承話を少し聞いたのですが、これがなかなか面白いと思いまして…。」
「そうか。そりゃあよかった。だったら、ここが弐の祠という事もご存じだろうなぁ。」
「弐の祠?」
「伝承を聞いたのではなかったのか。小石神様を参拝する時は、壱の祠から、順番にお参りするのが正しいんだ。」
「ははぁ…。では、最後は…八の祠に参拝するわけですね。」
老人は額の汗を手で拭いて答えた。