ゆらぎ村の悪霊〜前編〜-2
「ええ、大体二日に一度、そのような異変が起きているのです。どうか、我々をお助け下さい。よろしくお願いします。」
「正直難しい話だわ。そんな大規模な被害はこれまで聞いた事もないし、何より……そう、話を聞く限り、ハッキリと現れすぎなのよ。」
秋津は依頼について少しためらいを持ち始めているようだった。
「とりあえず、今日のところは村の方々に話を聞いて回る事に致しましょう。ところで、えっと、尾部さんでしたっけ。あなたはどう思われます?」
伯方が聞くと、尾部はようやく口を開いた。
「私ですか…?んー、怖いですよね…。今のところ、対策は何も思い付かない感じですね。」
「思い付かない…感じ、ですか?あなた、随分とお若いようですが、何か実績はあるのでしょうか?」
伯方は尾部を疑っている様子だった。
「いえ、実のところ、大した実績はないですよ。ただ、今回の件は面白いなと思って…。伯方さんも民俗学の教授でいらっしゃるから、もちろん同じく面白いとお思いですよね?」
尾部はさらりと言った。
「ふん…。まぁ、立場上そういう事は仕方ないとして、秋津さん、それに尾部さん、こういう話をご存知でしょうか。」
伯方は何やら古い資料を鞄から取り出してテーブルに広げた。
「これは、昭和初期にまとめられた由良木村の資料です。過去において、この村には数ヶ所ある祠の他、黄泉道の社という場所が存在したそうなのですが、実はその社が江戸時代に忽然と姿を消して以来、どこにも見当たらないそうなのです。黄泉道という名前からして、今回の件に無関係には思えないと、私は思いましてねぇ。」
「それで?私達にどうしろと?」
そう言いながらも、秋津も伯方の資料に食いついているようだった。
「村の方達への聞き込みは霊感うんぬんとは無縁の私にお任せ下さい。その代わり、あなた方は手分けしてこの社を探して頂きたいのですよ。」
伯方がそう答えると
「要するに、この場はあなたが仕切りたいわけね。」
秋津がギロリと伯方を睨んで言った。
「別にいいじゃないですか。我々3人は分野が違うのですから、出来る事を分担する方が効率的ですし、伯方さんはどうやらこの地の事情にはお詳しいようだから、仕切って頂いた方が動きやすい。」
尾部が言った。
すると秋津は
「まぁ、あなたのような得体の知れない方が仕切るよりはマシだけど、気に入らないわ。私は私のやりたいようにやる。それでいいでしょう?」
と言い返した。伯方はそれに対して浅いため息をついて
「まぁ、いいでしょう。では、尾部さん、よろしくお願いします。」
そう言って、席を離れた。
こうして、この村の1日目の探索が始まった。