同窓会〜揺るぎない想い編〜-1
ここのところのオーバーワークで、まともな休みすら取れなかった俺は、ようやく手にした休暇を自分の為だけに使おうと決めていた。
最近の俺ときたら、慢性的な睡眠不足によってひどい頭痛に悩まされていたし、心はそれ以上にささくれて悲鳴を上げる寸前だった。
心身が破綻をきたす前に、この仕事漬けの生活をリセットしなければならない。
『よしっ、今度休みが取れた時は、誰にも邪魔されずに昼過ぎまで寝てやるぞ!』
毎朝ふらつく自分に鞭打って起き上がり、満員電車に揺られるたびに、魔法の呪文のように唱え続けてきたこの言葉…。
ついに実行に移す日が来たんだと、昨夜ベッドに入った時は1人ニマニマしてしまった。
ところがどうだろう?
朝の清々しい部屋の空気を一瞬にして破壊するような目覚ましから解放され、好きなだけ夢の世界に浸れるというのに…。
皮肉なことにいつもと同じ6時に目覚めた俺は、それからまんじりともできなくなってしまった。
『学生の頃は15時間だって寝られたのにな。俺も28にしてワーキングジャンキーか…』
いつも以上の寝覚めの良さで、そんな虚しいような誇らしいような心情を吐き、俺はベッドから抜け出した。
ひとまずキッチンに行き、エスプレッソマシーンでコーヒーを立てる。
部屋中に香ばしいエスプレッソの香りが立ち込め、いつもなら気持ちが引き締まるところだが、今朝は時間に追い立てられない分、心持ちゆっくりコーヒーを啜る。
コーヒーなんていつから好きになったんだろう…こげ茶の泡の下のほろ苦い液体を味わいながら考えた。
アイツと過ごした頃は、たしか一緒にアイスティー飲んでたな…。
若かった自分を思い出すと同時に、賭けに負け自販機でミルクティーを2本買うアイツの姿がまぶたの裏に甦る。
「藤木ってホント甘党だよね〜普通男子はコーヒーじゃないの?」
『うるせ〜よ!柏木だっていつもソレ飲んでんだろうが!』
「あたしは女の子だもん当たり前でしょ…コーヒーとかお酒とか、たぶん一生ダメかも」
尖らせた口を俺に向け、黙ってミルクティーを差し出す柏木の手から、わざとソレをひったくる。
「もう…藤木っ!せっかくおごってやったのに金返せ!」
怒って追い掛けてくるアイツを振り切り、俺は笑う。
そんなささいな言い合いやじゃれ合いが中心だったアイツとの時間を、俺は懐かしく思い出す。
『柏木今頃元気かな?』
改めて口に出してみたその名前に、胸が掴まれるように痛む。
柏木雪乃…それは俺が高校3年間、片思いし続けた相手。
いつもそばにいながら、結局最後まで手が届かなかった最愛の人。
『おいおい…あれから10年も経つって言うのに、いまさら忘れられぬ恋でもないだろうにな』
そう強がってはみたものの、未だ癒えぬ過去の傷に、俺は1人苦笑する。