同窓会〜揺るぎない想い編〜-3
――同窓会の知らせが届いたのは、そんな柏木の幻想に包まれていた日の午後だった。
冬物のコートをクリーニングに出し、その店先にいたトラ模様の仔猫とひとしきり遊んだあとマンションに戻ると、ポストの中にそのハガキは入っていた。
何なんだ?このタイミングの良さは…ふいに自分にツキが向いてきたようで、途端に目の前が明るくなる。
結局…その日1日は柏木との思い出に心地よく酔った。
俺と柏木は、高校3年間を同じクラスで過ごした。
柏木は入学当時から大人びていて、凛とした美しさを持つ子だった。
内向的で人と関わることが極端に苦手だった俺と似て、柏木も又、1人でいることを好んでいたように思う。
入学式が終わり、教室に戻ったクラスメイト達は、さっそく数人の輪を作る中、女子では柏木…男では俺だけが、どこのグループにも属さず1人だった。
柏木は当時から背が高く、目鼻立ちがはっきりしていたから、クラスの中では目立つ方だったと思う。
「あれで愛想がよかったら言うことねぇんだけどなぁ」
なんて、野郎の戯言も、実際俺の耳に届いていたくらいだから…。
でも俺から見る柏木は、別段無愛想という訳でもなかった。
相手から話し掛けられれば、男子にも女子にも、そつなく応対していたから。
ただ、柏木の方からその輪に加わらない為、一部の生徒には、そんな印象が強かったのかもしれない。
休み時間の柏木は、たいてい1人窓際に立ち、グラウンドを眺めていたし、俺は机に突っ伏したまま、そんな柏木を見つめていた。
俺はその時すでに、柏木が気になる存在だった。
敢えて自分から近づくことはしなかったけど、俺の視線の先にはたいてい柏木がいた。
そんな柏木と俺を結び付けたのは、雨の日に公園に捨てられていた仔猫だった。
よりによって月曜の朝から寝坊した俺は、ギリギリ2時限目の始業に間に合わせようと、雨の中チャリを飛ばす。
学校まであと少しという公園を横目に見ながら走っていると、赤い傘を差した柏木の横顔が見えた。
『なぁ…お前柏木だろ?こんなとこで何してんの?』
俺が近づくと、柏木が泣いた直後の真っ赤な目で俺を見る。
「仔猫がね…死んじゃったんだよ。見つけた時は微かに温かくて、途切れ途切れだけど息もしてたのに…。もう少し私が早く見つけてたら、助けられたかもしれないのにさ…」
柏木はそう言って、痩せこけた仔猫の体をそっと撫でた。
もう散々泣いて涙は出尽くしたあとなのか…柏木の顔から涙は消えていた。