卒業-1
「じゃあ守、行ってくるから。晩飯はいらないって母さんに言っておいて」
「……わかった」
僕は寝起きのひどい顔で、それとは正反対の爽やかな笑顔で出かけていく兄を見送った。
亮にぃのやつ、半年くらい前に彼女が出来た途端、毎日が充実そうにしている。
加奈子さんだっけか、喫茶店で偶然再会したクラスメイトだなんてうらやましい。
一方の僕は、憧れの人に告白できず、いつまでも追いかけ続けたうえに、明日でお別れなんだよ。
明日こそは、必ずこの想いを。
***
僕が恋している人は、高校の先輩。
凛先輩は名前の通り、いつも凛としていた。
出会いは高校の部活動説明会。
一年生に部活の内容を披露して、勧誘するというもの。
当時入学したばかりの僕は、そこで初めて凛先輩に出会い、一目惚れをした。
凛先輩は応援同好会を一人でやっていた。
何でもお兄さんの影響だそうだが、人数が足りず、部活として認められていなかった。
でも凛先輩はその場で、たった一人で見事に応援を披露した。
恥ずかしがりもせず、真っ直ぐな瞳で、高くも力強い声で。
結局、その説明会では盛大な拍手は起きたものの、入会する者はいなかった。
僕以外は。
僕は体もひょろひょろだし、声もどちらかといえば高い。
とても応援なんて向いていなかったけど、僕は凛先輩に一目惚れして入会したのだった。
「よろしく、ぼーや」
「ぼ、ぼーや?」
これが凛先輩との最初の会話。
第一印象からなのか、何故か僕は、ぼーや、というあだ名で呼ばれることになった。