卒業-5
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「はぁっ…はぁっ…」
全力疾走でたどり着いた場所は、図書準備室。
同好会は部室をもらえず、応援同好会は凛先輩が当時頼み込んでここを借りていたのだ。
僕が入った頃は、練習すると隣の図書室に聞こえるためか、よく苦情がきていたものだ。
ここに来るのも、もしかしたら今日で最後になるのかもしれない。
僕は思い切り力強くドアを開ける。
「凛先輩っ!!」
「遅いぞ、ぼーや」
「はぁっ…はぁっ…凛先輩…っ」
凛先輩は、椅子に座って本を読んでいた。
「気付かないですよ…僕、ずっと正門で待ってたんですから…」
よかった。会えた。
それだけで心臓の高鳴りは止まっていた。
「私達の別れの場所は、やはりここだろう?」
凛先輩は表情を崩さずそう言った。
「あ…」
凛先輩から直接、別れなどという言葉を聞くと、やはりショックだった。
「まあ座りな、ぼーや」
凛先輩はいつものようにお茶の準備をする。
自分からたった今別れなんて言ったくせに、ずるい。
まるで何百回も繰り返した、いつもの放課後のようじゃないか。
「凛先輩、卒業おめでとうございます」
「ん、ありがとう」
凛先輩は半ば聞き流すかのように素っ気ない返事をして、ティーカップに紅茶を注ぎ始めた。
「凛先輩、寂しくないんですか?」
「ん、まぁ…ちょっとだけ」
ちょっとだけ…
さらにショックだ。ここにきて凛先輩に突き放された気がする。
「私はこの学校を卒業するわけだが、ぼーや、お前も私からついに卒業だな」
凛先輩はそう言うと、そこで初めてニコッと笑った。
「……凛先輩」
凛先輩に会えて、心臓の高鳴りは止まったはずなのに。
なんだか何も言えなくなる。