双子の姉妹。 5-4
***
「俊哉」
今日も大学で香織に捕まった。
家に来た日からこれで三日連続だ。
「なんだよ」
「今日晩御飯行こうよ」
「……」
おいおい、またか。
今日は久しぶりにバイトは入ってないのだけど、今日もバイトだと言って断ってしまおうか。
「…バイト?」
「……いや」
やはり断れない自分がいた。
なんだかんだ言っても、香織は恩人のようなものだから。
***
高校時代、両親を亡くした俺は親戚の家に世話になっていた。
両親がいなくなった当時は、高校受験真っ盛りの中学三年だったけど、進学なんてやめてしまおうかと思った。
だが親戚から、俊哉は頭がいいのだから高校大学はいいところに入りなさいと強く背中を押してくれて高校に入学した。
しかしやはり、最初は高校の仲間と中学のときのように遊ぶことはしなかった。
ただ身よりのない俺を拾ってくれた親戚に恩を返すために黙々と勉強を続けた。
だが、二年になったときにある女子生徒と仲良くなる。
それが香織だった。
最初はただ勉強を教えてあげただけだったが、それからは授業の合間なんかによく話すようになっていた。
そしてそれから、香織は勉強ばかりして誰とも関わろうとしない俺を、いろいろなところに連れて行ってくれるようになった。
最初は迷惑だとも思ったが、やはり何だかんだ言っても俺は高校生で、遊びたい盛りだったんだな。
そうして香織から始まり、クラスメイトとも少しずつ遊ぶようになった。
本当に当時の俺は、香織に助けられたと思う。
もし香織がいなかったらと思うとぞっとする。
勉強オタクで誰ともコミュニケーションのとれない暗い青年の出来上がりだった。
香織が同じ大学で教師を目指すと聞いたときは、驚いたがそれ以上にうれしかった。
「俊哉ー!」
「…っ」
「なに?目あけたまま寝てたの?」
そうだ…
なぜ俺は香織を避けているのだろう。
多少、自分勝手な女でも、俺は香織にはそんな態度をとる資格はないんだ。
それに香織は、あんなに周囲から人気で、こんなに可愛い。
最初は付き合えればいいなと思っていた。
でも…心のどこかに、香織を恋愛対象として見れない自分がいる。