卒業-3
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よくなにかを卒業する時に、それを新しい始まりに例えたりする人がいるけれど、僕はそうは思わない。卒業はあくまで何かの終わりであり、始まりなんかじゃない。それと同時になにかが始まるんだろうけど、卒業自体に始まりを予感させる様なものは何一つとしてないと僕は思う。小学校の卒業も、中学校の卒業も、今回高校の卒業も、何かの未来を見据えて行なった人間なんていやしない。僕らは今まで過ごしてきた日々を、過去の記憶を思うばかりだ。
僕は小西と付き合うことになった。今まで女性と交際したことの無い僕にとって、それは人生に置けるとても大きな壁となって、僕の歩みを左右している。彼女は時に感情的で、時に情緒的で、いつもかわいい。自分の関西弁が嫌らしくって、最近標準語を練習しているのだが、僕としてはあの関西弁のポイントは高く、なんとか彼女を説得するのに必死だ。
一つ、何かが終わって、何かが始まる。僕はたまに中畑くんのその後について考えるけれど、それをどう想像しようとリアルの彼の人生には到底及ばないことを僕は知っている。彼は卒業後、なにかを始めたのだろうか。連絡先なんか知らないから、それを確かめる術なんてない。彼の人生が素晴らしいものになっていることを祈ることしか出来やしない。
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春になると、朝に窓が曇ることも無くなって、空には桜の花びらが舞うのだろう。新しい生活に身を追われ、僕らはそれまでの人生を忘れてしまうに違いない。新たな出会い、様々な初体験の中で、手探りで自分の何かを求める。刺激ある日々に身を投じ、更新されていく記憶を携えながら生きていくんだ。
それでも、と僕は思った。それでもきっといつかは、僕はこの日のことをを思い出す。忘れることなんて絶対に無いと信じたい。
終わることの意味は、覚えてることだと。そうじゃなきゃ寂しいじゃないか。誰の記憶にも残らないこと程、悲しいことなんてないのだから。
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