百一夜の夢の後〜二夜〜-3
どれくらいぶりだろう――無償の、何と言えば良いのであろう見返りを求めないものを与えてくれた人は。
いつだって求められるは身ばかりで、与えられる言葉の裏の本心に……あちきを手に入れさえすれば矜侍は満足すると見え隠れする。
そんなに『花街一の花魁をモノにした男』の称号が欲しいのか。
ならば欲しいのは『花街一の花魁』で…『牡丹』でなくてもよいのであろう。
そう思ってしまう。
そう思わせる――周囲が、そう感じてしまう自分が、寂しかった。
けれどそれはあちきが周りに求め、周りがあちきに求めるからだ。
――一夜の夢を。
……なれど、この鈴はあちきに何も求めない。
求めないと思うのは、それがただの拙い菓子で、少しでも私の気に入ろうとばかりに金や贅をかけたものではないからかもしれない。
まだあちきにも拙く一直線に……駆け引きなしに思ってくれる。
そんな方がいることが幸せだと思えた。
例え囃し立てられての、からかいでも構わない。
手のひらに収まるくらいであったあの菓子を、砕いて表わる鈴はどんなもの。
綺麗に編んだ組紐で根付にしようか、湯屋の中、もう考えるあちきには、二刻後過ぎて暫くも、開けるのなんだか勿体ないとただただ馳せるのは中身のことと送り主のことだけであった。
だってこんなに嬉しくて堪らぬのだ。
厭わしい客の相手すら、卓上に置いた袋菓子がちらり見えるだけで気張れた。
数人の相手を終え、夜を越え…筋が張り凝った肩を首を回し宥める。
いくばくか疲れた体は甘いものを求めいて、同時に安らぎも欲しく思い、――戸惑いながらも、決めた。
小さく口を開き、袋菓子にそうっと歯をたて力を入れればカリと音をたて板菓子が割れ、小さく開いた穴を下にするようひっくり返せば、小さな鈴が手に転がる。