百一夜の夢の後〜二夜〜-2
「牡丹姐さん、今日の姐さん宛の文にございんす」
禿から渡された文は、きらびやかな和紙だったり、香を炊き込めてあったりと、懸想に拍車をかけ華々しすぎてどうにも心動かずいけない。
もう懸想文くらいでは、欲のまま求められることに慣れすぎている心は動じない。
それよりまた返事や反応を返さねばならぬのかと憂鬱になるのは――贅沢であろうか。
されど求められるはうわべだけ。
贅沢ばかりの文でも、憂鬱になろう。
――バサ…ッ
投げ棄てた憂うばかりの文たちから、ころころと何かが転げ戻り、自分を忘れていまいかと無言で手に触れて、その存在をあちきに教え触れる。
――何であろう?
堅い板が捻られて三つ角をもつ袋の形になっている。
――誰がこんな…。
摘まめばリンリンと何処からか鈴の音が。
まさかと思えど、そのまさか――顔に近づければ独特の控えめでいて柔らかに甘い香りが立ち込めて、菓子だと知れて、目を見張る。
――中に鈴がある?
久しぶりに高揚した気持ちになる心が早まって、思いきって中を開けてしまおうか、されど壊すのもさみしくて。
――あと、二刻……いやもうしばらくしたら、どうするか決めようか…。
そわそわ湧き出る気持ちは、まるで、宝箱をもらったような心地がした。
誰からかも、鈴以外何が入っているのかすら怪しいものだというのに。
……いや。
だからこそ、嬉しく思ったのだろう。
どこの誰かも知らぬが、わざわざ手間をかけて、隠すように鈴の音を送ってきたことが。
まるで見返りを求めず与えられたような気がしたのだ。