水曜日-1
「…ここにハンコを」
手渡された段ボールを受け取った私は、青年の日焼けした腕が差し出す伝票に認印を押しました。
「ごくろうさま」
私はその宅配業者の青年に軽く微笑み掛けました。
しかし、未だかつてその青年の顔に笑みが浮かんだことはありません。
青年は淡々と仕事を済ませると会釈をし、うつむき加減でドアから出て行きました。
年の頃27、8才というところでしょうか?
少し不良っぽい雰囲気がなかなか様になっている、魅力的な青年でした。
彼はいつも取り立てて話もすることもなく帰っていきます。
そんな彼に、私は常日頃どことなく物足りなさを感じていました。
愛想のなさを除けば仕事ぶりも至って真面目なので、むしろ彼には好感を持っていると言ってもいいのだけれど。
…とここまではいつもと変わらない日常の1コマですが、今回の本題はここからです。
青年から荷物を受け取った私は、いつにない高揚感に包まれていました。
すかさず伝票を確認すると品名欄には“化粧品”の文字。
でも化粧品を注文した覚えはありません。
来たんだわ…ついにネット注文したアレが!
数日前のパソコン画面に映し出されたアレを思い出し、ドキドキワクワク胸が弾みます。
私はいそいそとその小箱抱え、リビングで開封し始めました。
はやる気持ちを抑え厳重な二重包装を解いてゆくと、その箱の中には明らかに化粧品とは異なるものが入っていました。
〈デラックス姫子〉
けばけばしいショッキングピンクの外箱の透明フィルム部分からは、グロテスクな男根を型取ったものが覗いています。
間違いない…私が注文したアレだわ。
「わぁ、これがあのバイブ」
私は思わず感嘆の声を上げてしまいました。
だってパソコンの画面で見たあのバイブが、今私の目の前にあるのですから。
私ったら、ついに本物のバイブを買っちゃったんだわ。
興奮のあまり口中に溜まった生唾を、私はゴクリと音を立てて飲み込みました。
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