第一章-3
次の日、結衣が学校から帰り、洗濯をしようとした時の事だった。
「もう、翔太ったら、下着だけじゃなく体育着のシャツまで、…どうしよう、明日の体育…」
結衣は体育祭が近く、今日も練習で汗かいたのに体育着を持って帰るのを忘れて、明日も体育があるのでもう一枚を急いで洗濯して乾燥機にかけようとした。
しかしカゴに入れておいたシャツが無くなっているのに気付き、どうしようか悩んでしまった。
(今日のシャツ、明日も着たらきっと汗臭いから絶対に嫌だな、…やっぱり翔太に言うしかないな、でも何て言おう…)
結衣は翔太の事をとても大切に思っていた。
翔太は母親がいなくなってから元気が無くなり心を閉ざしてしまった。
そんな翔太を見るのが辛く、いつも優しく接して、やっと明るくなってきたのにここで強く言ったらまた心を閉ざしてしまうのでは無いか、そう思うと結衣はどうしても強く言う事が出来なかった。
(困ったなぁ、翔太を傷つけないように言うの…難しいな…でも言わなきゃ)
意を決して結衣は翔太の部屋に行き
「翔太、ちょっといい?」
とノックした。
少し経って
「…お姉ちゃん?何?」
と翔太が返事が返ってきた。
結衣はフウと軽く深呼吸して、ゆっくりとドアを開け
「翔太、…あのね、私の体育着のシャツ、無くなっちゃたんだけど…」
そこまで言うとベッドの上の翔太は
(ヤバい、昨日、返すの忘れてた)
と思い、結衣から目を逸らし
「しっ、知らないよ、そんなの…」
と気まずそうに答えた。
結衣はベッドの前に正座してなるべく優しく翔太に言った。
「翔太、怒らないから正直に言って、…私、明日体育があるの、もう一枚は今日学校に忘れてきちゃったから、無いと困るの…」
しばらく気まずい沈黙が続いたが、やがて翔太は目を逸らせたまま
「ごめんなさい」
と枕の下からシャツを出し、結衣に渡した。
結衣は素直に出した翔太に、あまり余計な事は言わない方がいいと思い
「ありがとう、翔太」
そう言ってシャツを受け取り、立ち上がって部屋を出ようとした。
すると翔太は
「待って、お姉ちゃん……何で怒らないの?」
と不安そうな顔で結衣に聞いてきた。
結衣は振り返り、再び翔太の前に座り少し考えて
「翔太も思春期だから…女の子の物に興味があるのはしょうがないもんね、…でも、一度きちんと話し合おうか」
と優しい口調で言った。
そして
「…翔太、私の下着、たまに無くなってるの、前から気付いてたよ」
結衣がそう言うと翔太は驚いた顔をして言った。
「えっ?…嘘っ?……ごめんなさい」
「いいの、怒ってるわけじゃないの、…ねぇ、私の下着なんか…何の為に持ってったの?」
そう聞くと翔太は下を向いてモゴモゴと
「いや…別に…ただ、なんとなく……」
とはっきり言わなかった。
その時、結衣はもしかしたらと思い恐る恐る聞いてみた。
「翔太、…もしかして私のだけじゃなく外で下着泥棒とか…して無いよね」
すると翔太はパッと顔を上げ、結衣を真っ直ぐに見て
「そんな事した事無いよ、俺、お姉ちゃんの下着の匂いにしか興味無いよっ」
と興奮して思わずそう言ってしまった。
「あっ……」
気付いた時にはもう遅く、結衣は
「翔太…私の下着の匂い…嗅いでたの?」
と恥ずかしそうに聞いた。
「えっ、うっ、うん……」
翔太も恥ずかしそうに顔を赤くして小さな声でそう言った。
再び気まずい沈黙が続き…