バレンタインデー-8
「電話切れてから買いに行こうとしたんだけどね、慎吾君が帰って来たら困ると思って…、ほら、携帯の電源まで切れてたし」
「ごめん」
「トモ君には普段お世話になってるから、今日の買い出しのついでにあげただけで」
「…ついで?」
「うん、トモ君家スーパーの通り道だから」
「通り道…」
心の中で大爆笑してやった。
ざまぁみろ!
やっぱり義理じゃん!
ついでじゃん!
それをあんなに浮かれちゃって、逆に同情するわ!
「いいよ、俺チョコレートいらない」
「ほんと?」
「ほんと」
「良かった」
安心したように笑って止まりかけていた手がまだお皿を洗い始めた。
「慎吾君」
「んー?」
「去年のバレンタイン、覚えてる?」
「死ぬまで覚えてる」
「そんなに強烈だった?」
「当たり前だ」
「深夜のチョコレートフォンデュ祭り、いいアイディアと思ったのにな」
あれ、祭りだったのか…
「あの日一日胃がおかしかったんだからな」
「あたしも」
「お前ほとんど残しただろ!」
「慎吾君は全部食べてくれたね」
「一応な」
ジャージャーと流れていた水道の水をキュッと止めて、濡れた手をエプロンで拭いたつむぎは俺に向かっていつものワードを言った。
「今日は何の日でしょうか」
…今日?
今日って、
「バレンタインデーだろ」
「それは世間の話」
今日はつむぎにとってバレンタインデーではないらしい。
暦通りじゃないところがまたややこしいんだよな。
「じゃあ分からん」
「教えてあげない」
「は!?」
「あたしが帰ってから日めくりカレンダー見てね」
「…はいはい」
そうしてその年の2月14日は俺が一人で大騒ぎして終わった。
こんな事は俺が言う事じゃないのかもしれないけど、多分、つむぎは俺が自覚してる以上に俺の事を好きで信頼してくれてる。
俺はきちんとその想いに応えられているのかな。
つまらない嫉妬して、第三者の存在に怯えて…
「…そう言えば、今日って何の日?」
日めくりカレンダーを見ると、いつもとは違って控え目な大きさの文字が書いてある。
「…ふっ」
誰もいないのに下を向いてしまった。
去年のチョコレートフォンデュを俺が残さずに食べたのがよっぽど嬉しかったらしい。
だから誕生日よりクリスマスより派手で豪華だったんだ。
2月14日
『慎吾君に惚れ直した日』
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