バレンタインデー-7
「ただいま!つむぎいるか――…」
「おかえり慎吾君!!!!」
「うおっ!?」
いるわけないと思っていたのに、予想外に元気いっぱいでつむぎは俺を迎えてくれた。
「つむぎ、あの…」
「慎吾君来て」
「へ?」
「早く早く」
「お、おぉ…」
ぐいぐいと腕を引っ張って部屋の中に連れ込まれた。
中は真っ暗で、外から帰ったばかりの目には何も見えない状態。
そんな中、つむぎはふふっと含み笑いをしながら、パチン、と照明のスイッチを響かせた。
「わ…」
思わず声が漏れる。
そこはまるでパーティー会場のような状態。
クリスマスより誕生日より派手な飾り付け。
テーブルには俺の大好きな唐揚げとポテトサラダが山のように皿に盛られ、チョコレートはないけどロールケーキが置いてある。
俺が前に絶賛した甘さ控え目のやつ…
作ってくれたんだ。
朝早くから準備して、俺が好きな食べ物を用意してくれて、一人で部屋を飾り付けて…
「ね、すごい?あたし頑張った?」
いつもみたいに俺からの称賛の言葉を待つ。
「うん、すごい美味そうじゃん」
「でしょー?」
得意げにフフン、と鼻を鳴らして、俺の大好きなあの笑顔をくれた。
「早く食べよ」
ぐいぐいと俺の背中を押して席に座らせると、自分も正面の椅子に腰掛けて、パンッと手を合わせた。
「いたーだきます」
昼のむさ苦しいテーブルとは大違いだ。
「ごめんね、慎吾君」
二人で片付けをしてる時、つむぎがぽつりと漏らした。
「チョコレート、なくて」
「え!?」
「ほら、電話で言ってたじゃん!あたし、慎吾君がそんなにチョコレートが欲しかったなんて気付かなくて――」
「…」
何でつむぎは怒りもしなければ泣きもしないのか疑問だったけど、そうか、あの電話の内容をそうとったのか。
俺がチョコレートが欲し過ぎて僻んでる男、と。
…良かった。
喧嘩とも別れの言葉とも思ってないつむぎのおかげで、今日の俺は救われた。