バレンタインデー-5
「ごちそーさまー」
その声にハッとして顔を上げると、トモ君はハンバーガーセットを完食してご丁寧に手を合わせていた。
「さーて、帰ってつむぎにもらったチョコでも食うか」
余計な一言とイヤらしい笑いを残してトモ君は店を出て行った。
「…ヤな奴」
ボソッと呟いて、すっかり冷めてしまったまずいポテトを咥えた。
それからゆっくり携帯を開いてつむぎに電話をした。
『もしもし、慎吾君?まだ準備できないんだけど』
準備って、何するの?
バレンタインじゃん。
チョコレート渡すだけの日だろうが。
「…つむぎ」
『何?』
「チョコレート、ある?」
『えっ、欲しいの!?』
そう言われた瞬間、頭の中の何かが弾けた。
欲しいの!?って事は、マジでチョコレート無しなの?
『だって慎吾君はチョコ―――』
「いや、もういい」
咥えてたポテトがポトンと落ちた。
俺、自分では結構冷静な人間だと思ってた。
つむぎとうまくやるコツも知ってるつもりだった。
『慎吾君?』
「お前さ、人の事追い出して何してんの?」
『何って、準備…』
なのに今は、そのコツが欠片も思い出せない。制御できるなんて偉そうに胸張ってた自分がただの可哀相な人間に思えて惨めだった。
「自分は他の男に会いに行って俺には帰って来るなって、どーゆう神経だよ」
『…え?』
さっきからトモ君の顔や声がチラチラ浮かんでくる。
バレンタインは好きな男にチョコをあげる日。
でもつむきがたった一つだけ買ったチョコは、あいつの為…
完璧な嫉妬。
つむぎにもトモ君にも同じくらいムカついてる。
そのせいで、自分のコントロールすらできなくなった。
「もういい。…疲れた」
『慎――』
通話を切って、そのまま電源も切った。
何か言いかけてたつむぎの声は、ツーツーという無機質な機械の音に変わった。
時間を潰すあても無いのに、帰るあてまで無くしてしまった。
それも、原因は嫉妬。
自分がこんなに嫉妬深いなんて知らなかった。
よくよく考えてみたら、俺のあの言い方って完全にお別れの言葉じゃないか?
疲れた、なんて…
そりゃ実際疲れるけどさ、でもそれがつむぎなわけだし、俺が喜べばつむぎは俺の倍喜んでくれる。
その顔がたまらなく好きだった。
なのに俺は―――