バレンタインデー-1
『present〜バレンタインデー〜』
「バレンタインデーって何ですかぁ?」
教室に入ってきて早々、開口一番で友人の花鳥院風月(かちょういんかざつき)が、某有名なロン毛の先生の物真似をする芸人の――さほど似ていない――物真似をしながら言った。
「チョコレートを貰う日だよ」
僕がそう答えるけれど、彼は納得していないようだった。
「お前はそうだろうが、オレは貰えないんだよぉ!」
風月は地雷火字高校の――逆の意味での――ミスター地雷火字に選ばれているから、チョコレートを貰えないと嘆いているのだ。チョコレートは普段の態度がきちんとしてれば、貰えると思うんだけど……。
「大丈夫だって。きっと貰えるさ」
「産まれてこの方、バレンタインデーは母親からしかチョコレートを貰った事ないんだぞ!」
ブレザーの制服を着ている胸を張って言う。風月は決してブサイクというわけではない。ただ、ウザいのだ。
「だから、大丈夫だって。近い将来貰えるって」
「近い将来っていつなんだよぉ! オレは今すぐ欲しいんだぁ!」
そう叫ぶと、クラス中の女子一人一人にチョコレートをくれよ! と交渉をし始めた。だが、数分も経たないうちに戻ってきて、うなだれながら言う。
「誰もくれねぇって! 十円のチョコでもいいのに……」
「まあまあ、そう落ち込むなって。貰えるから。な?」
背中をさすりながら慰める。こういうところもウザいといわれる原因なのだ。
「『鬼』は花から貰えるから良いよなぁ!」
近くで寝ていた鬼神鬼一(おにがみきいち)君――通称『鬼』――に皮肉たっぷりに言った。
「まあな。さっき貰った」
満面の笑みを浮かべ、可愛らしいラッピングをされた箱を僕ら――主に風月だけど――に見せつける。
「そりゃなんだ? オレに対しての見せつけですかぁ?」
お、勝てもしないのに対抗心を燃やしてる。興奮した風月は続けて僕に言った。
「おい、千葉! オレはこいつに対して急に殺意が芽生えてしまった。殺しても良いか?」
「よし。行ってこい」
「千葉! 即効で返事すんな!」
鬼一君は一生懸命に僕に風月を止めるように言うが、僕にはもう止められなかった。元々止めるつもりもないけれど……。
「よっしゃ! こいつを殺して、チョコレートを奪って、初めてバレンタインデーを成立させてやる!」
そして、風月は鬼一君をどこまでも追い掛ける。僕は心の中で鬼一君に頑張れと応援する。
風月が行った事を確認すると、机の中からバレンタインデーのチョコレートを取り出し、かじる。風月がいると落ち着いて食べれないのだ。
ゆっくり食べようとした瞬間、風月が来た。
「お前もかぁ!!」
もはや見境が無かった。だから、思わず逃げだす。
「なんで僕まで〜!」
End
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