背徳の時間〔とき〕C-1
「総務部のみなさんお疲れさん!これ…軽井沢のスキーみやげ。みなさんでど〜ぞ!」
「わぁ!和気課長。ごちそうさまで〜す」
「きゃっ…可愛いパッケージ!天使の絵が描いてあるよっ」
「課長…もしかしてそれって!北軽井沢のあの有名なパティスリーのですかぁ?」
「え〜、限定のすぐ売り切れちゃうって言うアレ?」
総務部の入社一、二年目の若い子達が、キラキラとした瞳を輝かせながら、和気課長の元へと駆け寄っていく。
「そうそう…さすが女の子達はよく知ってるなぁ!ここのマカロンはさぁ、間違いなくおいしいから、並んででも買うべきってうちの奥さんに言われてね。みんなの為に、ばっちり並んで手に入れてきましたよ!」
苦笑いしつつおどけてみせる和気課長に、集まった女の子達は黄色い歓声を上げた。
「ほらほら君たち…和気くんの側にいたい気持ちはわかるけど、そろそろ持ち場に戻ってしっかり働いてくれよ〜」
「「「は〜〜い!」」」
総務の佐野部長が、和気課長を取り囲んでいた女の子達に発破をかけ、にこやかに追い立てていく。
ふと…その隙をみてこちらを見やった和気課長と、刹那熱い視線が絡み合った途端、私の胸がズキンッと一つ跳ね上がった。
年始開けから、会社創立以来の大型契約成立に向け、休み返上で駆け回ってきた和気課長率いる営業二課のメンバー達。
このたび、その頑張りの甲斐あって無事に契約の運びとなった。
それを受け、社長から直々に異例の金一封付きの表彰があり、さらに営業二課の主要メンバーには、一週間の特別功労休暇が与えられたのだ。
「和気くん、今回の休暇は家庭サービスに撤したのかい?」
佐野部長はいかにも人のよさそうな丸っこい体を揺すりながら、和気課長に尋ねる。
「はい。いつもただでさえ帰りが遅いって文句言われてるもんで…。こんな時くらい家族に孝行しとかないと、いい加減愛想尽かされちゃいますからね」
雪焼けし、精悍さを増した顔つきの和気課長が、目尻を下げ屈託なく笑う。
口ではそう自嘲気味に言うものの、彼が家族にとっていかに必要とされる存在であるかを…私はよく知っていた。
こんな対外的な彼の表情に出会った時、まったくの他人でない分、私は感慨深げな、複雑な気持ちになる。
私が和気課長と初めて結ばれた頃、彼にはまだ肩書きがなかった。
当時から、方々で出世確実と有望視されてはいたものの、その頃の彼はまだ若く、どちらかと言えば見た目の魅力の方が若干勝っていたかもしれない。
しかしあれから五年経った今…和気課長は見た目以上の実力を兼ね備え、うちの会社にとっては欠かせない存在になっている。
それに引き替え私はどうか。
裏方である総務の仕事は、派手なことを好まない私には適した部署で、それなりにやりがいも感じている。
しかしプライベートでは、彼との報われない不倫の恋に、なんら新しい変化も見い出せぬまま、月日だけが流れていた。