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背徳の時間〔とき〕
【その他 官能小説】

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背徳の時間〔とき〕C-2

 ――この日の夜。

 二週間ぶりに私の部屋を訪れた彼は、「会いたかった…」と切ない瞳のままに私を抱き寄せ、熱い唇を重ねてきた。

 その唇は性急なまでに私を求め、欲する。

 そして、息継ぎすることすら忘れてしまいそうなほど、舌で激しく私の口内を溶かし、たちまち甘い水で私の喉を潤していく。

 まるで会えなかった時間を埋めるような、彼の慈しみに満ちた愛しいキスに、私の体に灯った小さな種火は勢いよくパチンと爆(は)ぜる。

 それは瞬く間に、メラメラとした勢いのある炎に代わり、私を深い欲望の海へと呑み込んでいく。

 彼との禁断の時間を享受した私の体は、たちまち淫らなほどに熱を持ち始めた。

 「和気さん…私だってずっと会いたかったのよ」

 私の口からはこんな時、哀しいほど素直な本音が零れる。

 いつもは心の奥に、そっと真綿に包みしまってある無垢な気持ちが、堰を切ったように溢れ出すのだ。

 年末年始やGW、夏休み…そして今回の休暇など。

 長期の休みとなり、会社で彼と会うことが出来なくなれば、当然家庭のある彼と私との距離は否応なく開いてしまう。

 お互いを甘く溶かすほどの愛を交わし合ってきた日々ですら、幻だったのか…と思えてしまうほどに。

 そんな時こそ…私は彼の一番ではないことを、痛いほどに思い知るのだ。

 「ごめんよ真由花。しばらく淋しい想いをさせてしまったね」

 私を見つめる和気さんの強い瞳の奥には、私だけが知る甘い光が宿る。

 初めから約束などなかった彼との恋。

 それを承知で、私は彼に身を委ねた。

 そのことで誰かを恨んだこともなければ、そんな自分を悔やんだこともなかったはず。

 それでもここにきて、五年という決して短いとは言えない彼との蜜月の日々に…様々な思いが、私の胸を掠めていったことを思い出す。

 「今まで微かでも彼に期待したことはないのか?」

 そう問われれば、それは「ある」と答えるしかないのが正直な気持ち。

 いつの日か、彼が私を選んでくれたならどんなに幸せだろう。

 そんな妄想に胸を膨らませ、夢見心地になったことも一度や二度ではない。

 でもいつしか、私が彼の横に並び、共に街を出歩くような幻想は見なくなっていた。

 しかしこうして彼のまなざしに魅入られ、熱い欲望のままに体を求められると、狂おしいほど彼にほだされていく自分が、今宵も止められない。

 彼の指が、彼の唇が、彼の体全体から発せられる熱が、衣擦れの音と共に私の欲する場所をもどかしく這いずり回る。


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