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百一夜の夢の後
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百一夜の夢の後〜一夜〜-1

あちきの夢が叶うのならば、どうか、誰か……夢を見せて欲しい。

待ち焦がれる夢を貰うには、あと幾夜、あと幾数の夢を与えれば良かろうか。



己の純潔代わりに守ってきたみそかは、もういない。

……いない、のではない。
もうみそかを守る手は別にあるのだ。

花街を出たあの子はきっと幸せにやっていけるだろう。

密かみそかと大事にしてきたのは、姉として母としてのつもりで守ってきたみそかの身だけでなく、あちきの夢でもあったのだろう。

あちきだって娘のころがあったのだ。
己の純潔を恋しい人に捧げたい心が僅かでもなかったとは、――言えぬ。

身請けされるみそかの涙と隣に並び肩を抱く蔵ノ介の、なんとも言い難い柔い温い空気に、恋しいと求め愛される身の美しさが、我が身には余りあまった。

あちきの欲に浴び濡れた身は、けして日の下に出しても清らかばかりと言える身ではないのだから。


それでも、――恥じることは一切ない。



母と共にこの花街に流れ着いてから、娘から女になれば私もいく末、育つ末は遊女しかないと覚悟して育った。


だから覚悟と共に育ってきた。


自分の純潔――初めての契りは、誰かに値を付けられ、高く売られる物なのだ、と。


誰か恋しい者に捧げる我が身ではない、と。


育つ中目にする、純潔を売り、欲を受け、杭を穿たれる娘から女となってからも身を売る女たちの姿は、いつか来る我が身を想像させるに容易かった。

けれど同時に幸いにもその当時の『蜜花世』には誇り高い姐さんがいた。

その姐さんから、娘時代の清らかなしのの身と引き換えに、遊女としてあるべく牡丹の誇りを学んだ。

今でもあちきは、その誇り高い当時の姐さんの真似をするように、『あの一言』を心に留めることで、夢を見ないよう、いつも姐さんのように遊女であるよう……己を戒めてきたように思う。


『ぬしには牡丹の名をあげんしょう。そして覚悟を一つ、――客に夢は与えど、……夢は貰えんせん。これが遊女でありんす』


その姐さんは好色の大店の爺に豪奢な花魁道中で大盤振る舞いに身請けされた。


でも私は知っていた。


姐さん宛の懸想文を届けに『蜜花世』に走る飛脚の若衆を姐さんが好いていたことを。

飛脚の若衆も、姐さんを好いていたことを。

その為に何度も身請けを拒んだことも。

でも当時の『蜜花世』の母さんじゃ、首を縦に振るしかない額のお金で姐さんが売られたことも。


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