百一夜の夢の後〜一夜〜-3
「竜さん、……あちきは……っ、いえ、我が儘でございんすね。ただ、…竜さんとじゃなきゃ楽になんぞなれんせん…。いつまた会えんせんか?……竜さん…どうかあと一時。お側にいたいんす……」
しなだれかかったまま胸に顔を埋め、切なげに声はさびしく響かせる。
――ぬしさまでなくてはいけんせんのです。
――ぬしさまでなくては意味がのぅございんす。
そんな意味合いを言葉遊びに織り混ぜて。
胸の辺りを幾ばくか、婀娜めいて嫌らしくないよう、はだけさせば、あらあら。
「桜木町なら……近いな。一刻なら花街から離れ牡丹と会うのもよいな」
ほら。
ないと仰った懐から、花代が零れ出す。
「ふふ。嬉しい。ありがとうございんす。花街以外の…桜木町を竜さんと二人歩きだなんて、……まるで夫婦のようだねぃ。あちきは幸せモンだ」
花街から監視付きとはいえ、舞台や街歩き、するためには花代弾んで貰わねば。
竜さんは何だかんだと言えどお武家さまなのだから。
ありがたい御客様だこと。
あとは二人街歩きをしながらねだりすぎず、でも可愛らしく少しは甘えねば。
そう冷静に判断する自分に気づけば、竜さんとは恋なんぞできんせんな、と苦笑してしまった。
もちろん、夫婦の言葉に頬を緩ませ気を弛ませる竜さんに、その苦笑は見られずにあちきはまた牡丹花魁の顔に戻る。
竜さんの求めるのは恋なんぞではないから。
求められるは花魁牡丹。
花街一の遊女の名をもつ牡丹花魁を侍らせたいだけだから。