投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

旅立ち
【青春 恋愛小説】

旅立ちの最初へ 旅立ち 1 旅立ち 3 旅立ちの最後へ

旅立ち-2

「サッカー少年だったの?」
「うん。サッカーをやっていた頃は、テレビさえあまり見られなかった。本当に世間知らずだったと思う。その分、卒業して色々な友達と遊んだり、映画やお芝居を見に行ったけど、美術館はなかった。元々、仏像には興味があったし、絵画や彫刻も見てみたいと思っていたんだ。」
「そう。それならまかせて。私が案内してあげる!」

絵里は、僕が自分の趣味に興味を持っていることで、美術品鑑賞の楽しさを教えたいと思っているようだった。

絵里は、特に絵画に興味を持ち、歴史や時代背景、様々な技法に精通していた。そんな絵里に美術館を案内してもらうのはとても楽しいものだった。会話が弾み、あっと言う間に時間が過ぎていた。絵画を見終わるともう昼時だった。その他の展示物について次の機会に案内してもらう約束をして、僕たちは食事を楽しむことにした。

美術館の近くにイタリア料理の店があった。釜焼きの本格的なピザを出す店内に入ると、
ピザの焼ける香ばしい香りが僕たちを包んだ。

「私、男の人と二人で食事するのは始めてなの。」
「もしかしたら緊張している?」

絵里が、恥ずかしそうに俯いた。

「絵里ちゃんと初めて食事をする男性に選ばれて光栄です。
 さあ、こちらへ。」

僕が芝居掛かって窓際の椅子を引くと、絵里が優雅に進み出る。そして、僕にご苦労とばかりに微笑みかけて、絵里は静かに腰掛けた。

「勇斗くんって呼んでいい?」
「いいよ。」
「勇斗くん、今日は、誘ってくれてありがとう。
 とても楽しかったよ。
 本当はね、今日来ようか迷っていたの。
ううん。勇斗くんが、どうってことじゃなくて・・・・
男の子が苦手だったから・・・・・」
「男の子が苦手?」
「女子高だったし、男の子はみんな乱暴だと思っていたから。」

世間知らずはお互いさまだが、男の子は皆乱暴者には僕も驚いた。

「それなら安心して、僕は絵里ちゃんがいやがることは絶対にしないから。
 それから、僕だけじゃなくて、粗暴な男性はごく一部だから安心していいよ。」
「うん。勇斗くんと一緒にいてそれは分かった。」

僕は絵里に、今までに出会った女性と違う何かを感じていた。

僕たちは、恋愛感について話をした。絵里は、古典的な結婚観念を持っていた。そして、結婚を前提とせずに男性と付き合うことなど考えられないと言った。

「また、僕と会ってくれるって約束したよ。」
「好きにならないけど、それでもいいの?」
「うん。それでいいよ。 でも、君はきっと僕を好きになるよ。」

好きにならないと言う絵里に、僕は思わず、僕を好きになると言ってしまった。
僕は、絵里に引かれ始めている自分をはっきりと自覚していた。

絵里と別れると、渚からメールが入ってきた。今晩の飲み会の誘いだった。普段は、予定がなければ誘いを断らない僕だが、その日は気分が乗らず、まっすぐに自分の部屋に戻ることにした。

僕は、珍しく一人の夜を過ごそうとしていた。飲み会がなければ誰かの家に集まり、鍋を突きながら夜が更けるまで飲み明かすのが常だった。一人になると、絵里のことが思いだされた。絵里は、裕福で厳格な家庭に育った娘だった。世間知らずでありながら、他人に流されることなく、はっきりと自分を保てる女性だった。
絵里にきっと僕を好きになると言ったものの、僕にとって絵里は高嶺の花のような気がしてならなかった。確かに絵里は僕を好きになるかもしれない。しかし、親の認めた相手でなければ、絵里はけして好きだと言わないような気がしていた。そんなことを考えていると、酔っ払った渚とその他数名がなだれ込んできた。まだ、夕方の6時を過ぎたばかりで、外はまだ明るいはずだった。


旅立ちの最初へ 旅立ち 1 旅立ち 3 旅立ちの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前