投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

カコミライ
【大人 恋愛小説】

カコミライの最初へ カコミライ 11 カコミライ 13 カコミライの最後へ

カコミライ (2)バカな男-6

「香子ちゃん」

 心に染みるような柔らかな呼び掛けに、とうとう堰を切ったように涙が止まらなくなってしまった。鼻先がつんとして、呼吸が苦しい。温かいものが頬を幾重にも伝っては、真っ白なシーツに染み込んでいく。
 海が困ってる。早く涙を止めなくちゃ。意思に反して涙は益々零れ出す。滲んだ視界で、眉を下げた海だけがやけに鮮明に映った。

「ん、ごめっ……だいじょうぶだから」

「大丈夫には見えないよ。今日はもうやめよ。無理せず早く休もう」

 優しい声と共に、大きな掌が頭に落ちてくる。ガシガシと動く掌は乱雑で、けれど一生懸命であることは伝わる。


 撫でないでよ。優しくしないでよ。もっと好きになっちゃうよ。海は知らないだろうけど、私は海と美嘉さんの関係を乱そうとしたんだよ。声を掛けたのだって違う理由なんだよ。



‘バカな男’

 私は海を蔑んだ。
 そうする事でしか、自分を守れなかった。これはせめてもの抵抗なのだ。海を否定することで、自分を保とうとしている。私は弱い。


 私はもう一度だけ呟いた。きっと海には届かない。声なき声で、繰り返す。


‘バカな男’




カコミライの最初へ カコミライ 11 カコミライ 13 カコミライの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前