カコミライ (2)バカな男-3
「……はい」
「私ね海君を利用してるのよ」
「利用、ですか?」
「そう。コー君……古来君が亡くなってから私ずっと泣いてたの」
美嘉さんの発言一つ一つに、肩が震える。
「海君といるとね。少しだけ前向きになれるのよ」
「嫌じゃないんですか?だって彼氏が他の女となんて」
「うん、嫌よ。でもね、香子さんと寝て、海君が自信を取り戻してくれるならいいのかなって。それで海君が元気になって、私も未来を見れるならそれでいいのよ」
「海は知ってるんですか?美嘉さんが海と私の関係に気付いてる事」
「知らないんじゃない?悪酔いしてる時の記憶は飛んでることが多いもの。ふふ、何だかこれ尋問みたいね」
私が言えなかった思いを美嘉さんが零す。お互い様じゃない、と心の中で独りごちる。
そのまま最後の尋問を投げかけた。
「何で私をここに呼んだんですか?」
「さぁ?あなたの顔見たら忘れちゃった」
泣くのかと思った。
飄々とした声に対して、美嘉さんの表情は哀しげに歪んでいたからだ。潤んだ瞳が揺れている。けれど、美嘉さんは余裕のある態度を崩さない。
「香子さんは?」
「え?」
「あなたはどうして海君の電話に出たの?」
「それは、その……」
言い淀んで、それきり何も言葉が出なかった。言い表せない何かが、喉につっかえてもどかしい。
一向に口を開く様子のない私に、美嘉さんが伝票を手に持ち席を立つ。
「チーズケーキ食べてね。美味しいから」
柔らかな声が掛けられて、美嘉さんの背中が少しずつ離れていく。
何か言わなければいけないのに、唇は固く閉じたままだ。
肩に張った力が抜ける頃には、美嘉さんの姿は完全に消えてしまった。
冷えた指先を暖めるように、ティーカップに手を添える。伝わる温度は先ほどよりも若干ぬるくなっていたけれど、指先にはじんわりと熱が灯る。
閉ざされた唇に、指先を押し当てる。僅かな熱が唇に触れた。
―――違う。
私が欲しいのは、こんな熱じゃない。