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「鬼と姫君」
【ファンタジー 恋愛小説】

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鬼―季節を待つとき―-1

この世は理不尽だ―。


男の子は常々そう考えていた。


男の子よりほんの僅かな時の差で、先に生まれた兄は、春宮で女官に傅かれ、何不自由なく暮らしている。

片や、弟である男の子は―。

深山の穴ぐらに一人きり。元々常人とは異なるからか、感情の起伏に乏しく、寂しいとは思わない。

思わないが、同じ女の腹から生じたのに、ここまで異なる境遇を不思議に思う。

母という人は、この国を統べる男のあまたいる妻の一人だ。
男の妻の中では高位で、美しくもあったが、何より嫉妬深い女だった。

子を孕んだ女から足の遠ざかった男と男が通っているであろう自分以外の女に、毎晩呪詛の言葉を吐き続けた。
悋気に身が焼きただれる思いをした。


程なくして生まれた子は男の子だった。

女は安堵した。
世継ぎを生んだのは男の妻の中で彼女しかいなかったからだ。


だが。
間をおかずして次に生まれた子は―。


すでに豊かに生えた髪の毛は白色。
額には瘤のようななだらかな山が二つあった。

明らかな異形。
昏い嫉妬の念は、母親自身ではなく生まれた子がその凄まじい思いを体現したのだ。

「この皇子は鬼になりまする」

出産に立ち会った僧侶が、震える唇で告げた。


女は直ぐに異形の子の処分を命じた。

何、皇子はもう一人生まれている。女と周りの大人たちは少しの躊躇もしなかった。

困ったのは鬼の子の処分を命じられた僧侶である。
僧籍にありながら殺生をする罪深さに…というより、後々の災いが己にふりかかることを恐れた。

結局、生かしたまま、禍々しい緑子は都の外れにひっそりと在った荒寺に、半ば強引に預けられた。




雪のように白い肌に真っ赤な頬が鬼灯(ほおずき)のようだからと、鬼にしては些か迫力に欠ける名を、男の子を引き取った荒寺の僧侶に付けられた。

鬼の子を預かった僧侶はしかし、思慮深く、また穏やかだった。

男の子はこの僧から幾つかのことを学んだが、物心がつくと窮屈な寺を抜け出して、一人、山で過ごすようになった。


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